金鳳漢

金鳳漢（キム・ボンハン）とは

金鳳漢（キム・ボンハン、1916年 - 没年不明）は、北朝鮮の医学者です。彼は「ボンハン学説」という独自の理論を発表し、一時北朝鮮政府によって世界中に宣伝されました。しかし、その学説は科学的根拠に乏しい捏造であったことが判明し、さらに彼の政治的立場が影響して失脚。現在では、彼の存在そのものが北朝鮮の公式記録から抹消されています。

ボンハン学説の登場と展開

1961年8月、当時平壌医科大学の教授であった金鳳漢は、彼が率いる経絡研究集団とともに『経絡の実態に関する研究』という論文を発表しました。この論文は、東洋医学における経絡や経穴、いわゆる「ツボ」に相当する部位に特定の器官が存在するという画期的な発見を主張するものでした。

この研究は「ボンハン学説」として大々的に発表され、その後も1963年に『経絡系統に関する研究』、1965年には『経絡体系』と『サンアル学説』が相次いで発表され、医学界の注目を集めました。北朝鮮は国を挙げてこの学説を推進し、1965年には朝鮮科学映画撮影所が「経絡の世界」という題名の映画を製作。この映画は1966年には日本でも公開され、また、北朝鮮郵政当局は金鳳漢の功績を称え、二度にわたって記念切手を発行しました。

学説の崩壊と失脚

しかし、世界各国の医学者による検証の結果、金鳳漢が主張するような器官の存在は確認されませんでした。そのため、「ボンハン学説」は科学的根拠のない捏造であるという結論に至りました。さらに、金鳳漢が当時の北朝鮮の政治的権力構造において、金日成を支持する基盤であった満州派（国外パルチザン派）との同盟関係を解消し、甲山派（国内パルチザン派）に接近していたことも、彼の運命を大きく左右しました。

1967年5月、金日成による独裁体制確立のための大規模な粛清（マグチャビ）が実行され、金鳳漢は金日成に対する不満を持ち、国家転覆を企てたという容疑をかけられ失脚しました。彼の学説は公式記録から抹消され、その後の消息は一切不明です。

幻の切手

金鳳漢を顕彰するために発行された切手は、北朝鮮当局によって回収され、発行された事実そのものが隠蔽されました。そのため、海外に流出した切手のみが現存しています。皮肉なことに、これらの切手は現在では北朝鮮切手の中でも非常に希少なものとして扱われています。

参考文献

金鳳漢『経絡系統にかんする研究』外国文出版社、平壌、1964年（原著1963年）。NDLJP:2429032。
内藤陽介『北朝鮮事典-切手で読み解く朝鮮民主主義人民共和国』竹内書店新社、2001年。ISBN 4803503168。

関連項目

黄禹錫：韓国の生物学者。同様に国家的な支援を受けたが、研究の捏造が発覚し失脚した。

外部リンク

科学者の捏造：北朝鮮の場合 - 郵便学者・内藤陽介のブログ
* 都合が悪くなると"抹消"消された肖像～発掘！北朝鮮切手～

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