鈴振り

鈴振り

「鈴振り（すずふり）」は、落語の演目の一つで、その原話は松浦静山の随筆『甲子夜話』にあります。この噺は、一風変わった方法で次期大僧正を選ぶという、ユーモラスな展開が魅力です。

あらすじ

舞台は藤沢の遊行寺。次期大僧正を決めるにあたり、当代の大僧正は、多くの弟子の中から誰を選ぶべきか頭を悩ませていました。そこで、側近たちと協議した結果、とんでもない方法を思いつきます。

選考当日、全国から集まった多くの僧侶で客殿は埋め尽くされ、まるで瓜畑のようです。そこに大僧正の側近が現れ、僧侶たちの腰に小さな鈴を結びつけました。不審に思いながらも本堂で待つと、御簾の中から大僧正の声が聞こえます。「本日、吉例吉日につき、酒と魚を食することを許す」。

お寺で酒とは驚く弟子たち。さらに、絶世の美女たちがずらりと並び、お酌を始めます。実は彼女たちは、柳橋の遊郭から選ばれた芸者たち。大僧正の真意に気づいた弟子たちは、必死に坐禅を組み、心を鎮めようとしますが、芸者たちは容赦なく迫ります。そして、腰の鈴がチリンチリンと鳴り響き、本堂はまるで秋の草原のようです。

「これは大変だ、仏法も終わりだ…」

大僧正は、この光景に打ちひしがれますが、本堂の隅で涼しい顔で念仏を唱える若い僧侶を発見します。不思議なことに、彼の腰からは鈴の音が聞こえません。「彼こそがわしの後継者だ！」と、大僧正は感動し、僧侶の裾をめくると、鈴がついていません。「鈴はどうした？」と尋ねると、僧侶は「とっくに振り切りました」と答えます。

概要

原話では、五戒の一つである『邪淫戒』を試すために鈴が使われ、弟子たちが全員失格となった後、師匠自身も失格していたというオチがあります。この噺は艶笑噺として扱われがちですが、その内容は非常に面白く、川柳の題材にもなりました。

この噺の大本は、中国の明代に書かれた笑話本『笑府』だと言われていますが、明和五年（1768年）に江戸で出版された須原屋半兵衛板にのみ原話らしき話が収録されており、現在では確認されていません。

艶笑噺の性質上、著名な落語家による口演の録音・録画は少ないですが、五代目古今亭志ん生の録音がいくつか残っています。志ん生は、高座や落語会で、他の演者と演目が被ってしまった際などに、この噺を演じることがありました。彼は「放送などでは絶対にできない」と断りつつも、楽しそうに演じていたそうです。

主な演者

物故者

五代目古今亭志ん生
十代目金原亭馬生

現役

金原亭龍馬

脚注

注釈

出典

参考

武藤禎夫「定本 落語三百題」解説
* 駒田信二『中国笑話集』(ちくま文庫　1999年)

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