鈴木政吉

鈴木政吉：日本のヴァイオリン製作の先駆者

鈴木政吉（1859年 12月11日 - 1944年 1月31日）は、尾張国名古屋（現在の愛知県名古屋市）出身のヴァイオリン製作者であり、鈴木バイオリン製造株式会社の創業者です。独学でヴァイオリン製作技術を習得し、その才能は国内外で高く評価されました。また、才能教育法「スズキ・メソード」の創始者である鈴木鎮一は彼の三男です。

生い立ちと初期のキャリア

1859年、鈴木政吉は尾張藩の武士である鈴木正春の次男として生まれました。父は武士でありながら、内職で琴や三味線を製作しており、幼少の頃からものづくりに触れる機会がありました。政吉は一時、別家の養子に出されますが、養父の死により実家に戻ります。その後、尾張藩の音楽隊に太鼓役として出仕しますが、すぐに失職。藩の洋学校で学びますが、学費の工面ができず退学します。その後、東京の塗物商に奉公に出ますが、店が閉店したため名古屋に戻り、三味線職人としての道を歩み始めます。

ヴァイオリン製作への挑戦

1887年、政吉は小学校の唱歌教師から音楽を学び始め、その際、門下生が持つ国産ヴァイオリンに触発されます。ヴァイオリンの可能性を感じた政吉は、製作を決意しますが、実物のヴァイオリンを借りることも、木材を入手することも困難な状況でした。試行錯誤を重ね、1887年から1888年にかけて最初のヴァイオリンを製作しますが、売れませんでした。しかし、改良を重ねた3号機は1号機の2倍の音量を出すことに成功し、その出来栄えは周囲を驚かせました。1888年には、自作のヴァイオリンが教師の門下生に売れたことで、政吉は自信を深めました。

東京音楽学校での評価

1887年に発足した東京音楽学校の教師ルドルフ・ディットリヒは、政吉のヴァイオリンを鑑定し、「和製品としては今日第一位を占める」と高く評価しました。また、1893年の『音楽雑誌』には、「輸入ヴァイオリンと同様の音質をもち、廉価である」と紹介され、政吉の自信をさらに深めました。その後も、複数の音楽学校教員や宮内省の音楽教師が政吉のヴァイオリンを推薦しています。

本格生産と販路拡大

1889年、政吉は長男の梅雄が誕生した同じ年に、東京と大阪の商社と契約を結び、販路を拡大しました。1890年には、自宅を拡張し、本格的にヴァイオリンの生産を開始。弟子を育成しながら、生産体制を整えていきました。また、オルガン製作を行っていた山葉寅楠（ヤマハ創業者）とも交流を持ち、互いに刺激し合いました。

博覧会での受賞

1890年の第3回内国勧業博覧会では、ヴァイオリン部門で最高賞である3等有功賞を受賞しました。1893年のシカゴ万国博覧会では、褒章を受章。1895年の第4回内国勧業博覧会では、進歩3等賞を受賞し、その作品は「高額でなければ1等賞でも良い」と評価されました。1900年のパリ万国博覧会では、選外佳作に終わりましたが、政吉は海外製品との差がないと前向きに捉えました。その後も数々の博覧会で受賞し、その名は国内外に知れ渡りました。

ヴァイオリン教則本の執筆

1902年、政吉は『バイオリン独習書』を刊行しました。この教本には、「一月一日」や「君が代」などの曲が収録されており、ヴァイオリンを学ぶ人々の間で広く用いられました。

輸出と大量生産

明治30年代には、国内のヴァイオリン市場の8割を占めるまでに成長し、海外進出も視野に入れるようになりました。1912年には、年間7304本のヴァイオリンを製造するほどに成長しました。しかし、不況の影響や流行の変化により、他の楽器の製造にも着手することになります。

新しい楽器への挑戦

マンドレーラやヤマト・ピアノといった新しい楽器の開発にも取り組みましたが、売り上げは伸び悩みました。しかし、その独創的な発想と挑戦は、後世に大きな影響を与えました。

皇室との関わり

1913年には、鈴木バイオリンの工場が勅使御差遣の栄誉を受け、1927年には昭和天皇に単独拝謁を許されました。また、皇太子時代に、政吉が製造したヴァイオリンを贈られたというエピソードも残っています。

経営悪化とその後

昭和に入ると、ヴァイオリンの生産状況は厳しくなり、1932年には会社が倒産してしまいます。しかし、長男の梅雄が中心となって経営再建に取り組み、半年で会社債務を完済させました。政吉は社長を退任した後も、楽器の研究に打ち込み、1944年1月13日、肺炎のため亡くなりました。亡くなる3日前まで、ヴァイオリン製作に没頭していたと言われています。

家族

政吉は2人の妻との間に、9男4女をもうけました。長男の梅雄と次男の六三郎はヴァイオリン製作者として、三男の鎮一はヴァイオリニストとして活躍しました。また、シンガーソングライターのタケカワユキヒデは玄孫にあたります。