スズキ・メソード

スズキ・メソードとは

スズキ・メソードは、音楽教育を通して子どもの才能を育むことを目的とした教育法です。創始者の鈴木鎮一は「どの子も育つ、育て方ひとつ」という理念を掲げ、音楽を通じて豊かな人間性を育むことを目指しました。この教育法は、単なる音楽技術の習得にとどまらず、子どもの心を豊かにし、自信を育てることを重視しています。

理念

スズキ・メソードの根幹には、「どの子も育つ、育て方ひとつ」という理念があります。これは、すべての子どもが生まれながらに才能を持っていると考え、適切な環境と教育によって、その才能を開花させることができるという考え方に基づいています。音楽を学ぶことを通して、子どもたちの潜在能力を最大限に引き出すことを目指しています。

歴史

日本での成立

スズキ・メソードは、1932年に鈴木鎮一が4歳の江藤俊哉を指導したことから始まりました。当時、早期教育を希望する親が増える中、鈴木は母語を習得するように耳から音楽を学ぶ「母語教育法」を確立しました。戦後の1946年、鈴木は長野県松本市に松本音楽院を開設し、全国幼児教育同志会を発足させました。その後、1948年に才能教育研究会と改称し、1950年には文部省（現在の文部科学省）から社団法人として認可され、スズキ・メソード普及の中心となりました。

鈴木鎮一の没後は、豊田耕兒、中嶋嶺雄、鈴木裕子、早野龍五が会長を務め、現在に至ります。

海外への展開

1964年以降、鈴木は毎年「テン・チルドレン・ツアー」と題し、5歳から13歳までの生徒を海外演奏旅行に連れて行きました。このツアーは30年間で20カ国384都市、483回のコンサートを実施し、スズキ・メソードの国際的な普及に大きく貢献しました。アメリカでは1975年に第1回世界大会が開催され、1978年にはジミー・カーター大統領夫妻も臨席したコンサートも開催されました。1999年の映画『ミュージック・オブ・ハート』でも、スズキ・メソードが取り上げられ、その教育法が広く知られるようになりました。現在、海外では日本を大きく上回る30万人以上の生徒が学んでいます。

ベネズエラでは、鈴木初期の門人である小林武史が1971年に教授法を伝え、同国の文化政策エル・システマ成立に貢献しました。

スズキ・メソード音楽教室

現在のスズキ・メソード音楽教室では、ヴァイオリン、チェロ、フルート、ピアノの科があります。中でもヴァイオリン科が最も歴史が長く、生徒数も多いです。才能教育研究会の発表によると、世界中に約40万人、日本国内には約1万人弱の生徒が在籍しており、そのほとんどが小学生以下です。本部を長野県に置き、日本全国に大小様々な支部が存在します。

卒業制度

スズキ・メソードでは、生徒の明確な目標設定のために『卒業制度』を設けています。レッスンでは、スズキ・メソード発行の教本を使い、各巻は各科と対応しています。生徒は各科の課題曲を録音し、才能教育研究会本部に提出して採点を受けます。合格すると卒業証書が授与されます。ただし、録音せずに次の練習曲に進むことも可能です。進度は生徒によって異なり、複数年かけて卒業する生徒もいれば、1年で複数の科を卒業する生徒もいます。

卒業曲

ヴァイオリン科の卒業曲には以下のようなものがあります。

前期初等科: ゴセック、ガヴォット
初等科: J.S.バッハ、ブーレ
前期中等科: ヴィヴァルディ、ヴァイオリン協奏曲イ短調 第1楽章
中等科: ヴィヴァルディ、ヴァイオリン協奏曲ト短調 第1楽章
前期高等科: コレッリ、ラ・フォリア
高等科: J.S.バッハ、ヴァイオリン協奏曲第1番
才能教育課程: モーツァルト、ヴァイオリン協奏曲第4番ニ長調、ヴァイオリン協奏曲第5番イ長調
研究科A: モーツァルト（クライスラー編曲）、ロンド、パラディス、シチリアーノ
研究科B: ヴィターリ、シャコンヌ
研究科C: メンデルスゾーン、ヴァイオリン協奏曲ホ短調

進路

全課程を修了した者は、国際スズキ・メソード音楽院に進んで指導者を目指したり、より専門的な音楽教育を受けてプロの音楽家になる道を選ぶことができます。しかし、スズキ・メソードは音楽分野に限らず、早期教育によって培われた能力を様々な分野で発揮することを奨励しています。

スズキ・メソードと桐朋学園大学との関係は深く、多くの出身者が桐朋学園大学に進学しています。これは、創始者の鈴木鎮一と桐朋学園の関係者との親交が深かったことによるものです。

行事

夏期学校

毎年7月末から8月初めにかけて、長野県松本文化会館を中心に約1週間開催されます。グループレッスンやコンサートが行われ、全国の会員が集う社交場となっています。

グランドコンサート

かつては毎年3月下旬に全国から生徒が集まり、大規模なコンサートが開催されていました。1955年に東京体育館で始まった全国大会は、皇族も臨席する中で開催されました。その後、場所を移しながら毎年開催され、1966年からは日本武道館で開催されるようになりました。1992年からは「グランドコンサート」と名称を変え、鈴木鎮一の没後も開催されていました。

2018年には9年ぶりに両国国技館で第53回グランドコンサートが開催され、天皇皇后両陛下も臨席されました。このコンサートでは、スズキ・メソードの生徒に加え、エル・システマジャパンの指導する子どもオーケストラも共演しました。

プログラム例

2004年のグランドコンサートでは、以下のようなプログラムが演奏されました。

ヴァイオリン（オーケストラ伴奏）：メンデルスゾーン、協奏曲ホ短調 第3楽章
フルート：チャイコフスキー、『くるみ割り人形』より「葦笛の踊り」など
箏：正統邦楽会による演奏
チェロ：フォーレ、エレジーなど
ピアノ：モーツァルト、ロンドなど
オーケストラ、合唱：ヘンデル、ハレルヤ・コーラス
全科による合奏：鈴木鎮一作曲の『きらきら星変奏曲』など


特に『きらきら星変奏曲』は、どの科でも最初に学ぶ特別な曲で、全員で演奏されます。

スズキ・メソードが育んだ人々

スズキ・メソードは多くの著名な音楽家や各界の著名人を輩出しています。以下はその一部です。

鈴木鎮一に師事した者（時期順）

江藤俊哉、諏訪根自子、豊田耕兒、中嶋嶺雄、小林武史、小林健次、有松洋子、篠崎永育、鈴木秀太郎、浦川宜也、眞峯紀一郎、志田とみ子、西崎崇子、早野龍五、石川静、沼田園子、高橋利夫

その他の主な出身者（50音順）

東誠三、上野達弘、梅津美葉、江口有香、江澤聖子、大谷康子、岡崎慶輔、岡田伸夫、奥村愛、金森圭司、壁瀬宥雅、川本嘉子、木村眞一、小林美恵、小森俊明、坂井素思、斉藤雪乃、さだまさし、佐藤康光、佐藤美代子、高田あずみ、高松亜衣、竹澤恭子、田中正也、田中康夫、長井鞠子、葉加瀬太郎、林峰雄、久石譲、広瀬悦子、松田理奈、松波恵子、松本蘭、三浦章広、三浦文彰、水野紗希、水野佐知香、宮台真司、宮田大、宮前丈明、村中麻里子、山田晃子、渡辺玲子

海外のスズキ・メソード経験者（アルファベット順）

アン・アキコ・マイヤース、アラベラ・シュタインバッハー、ブライアン・ルイス、ヒラリー・ハーン、ジョシュア・ベル、ユリア・フィッシャー、リーラ・ジョセフォウィッツ、マッズ・トーリング、ニコラ・ベネデッティ、レイ・チェン、サラ・チャン、ステファン・ジャッキーヴ、曾宇謙、ヴァネッサ・メイ、ヨーヨー・マ

独自の練習法など

パンダ

ヴァイオリンのボウイングテクニックの一つで、指弓のことを「パンダ」と呼びます。この名称は鈴木鎮一が名付けました。

逆さ弓

弓を逆さに持ち、先の方を持って演奏する練習方法です。弓の吸い付きを良くする効果があります。これも鈴木鎮一が考案しました。

一茶の俳句暗唱

小林一茶の俳句を百句暗唱する練習です。上の句を詠んだ後に、下の句を全員で唱和します。

斉奏

協奏曲のソロパートを大勢で合奏します。代表的なものとしてヴィヴァルディの協奏曲イ短調第1楽章や、メンデルスゾーンの協奏曲ホ短調第3楽章があります。

宝くじコンサート

以前に習った曲をくじ引きで選び、ランダムに演奏する練習法です。これにより、常に技量を維持します。

参考文献

スズキ・メソードに関する書籍として、以下のようなものがあります。

才能開発は0歳から
歩いて来た道
愛に生きる―才能は生まれつきではない
才能は愛で育つ―鈴木鎮一の人と哲学
現代の覚者たち
子供の幸を／おねがい
奏法の哲学
前奏と名古屋の子守り歌 キラキラ星の主題によるパラフレーズ
音楽の車―鈴木鎮一の生涯と才能教育運動によせて
スズキ・メソードと子供の教育
音にいのち在り（DVD付）

外部リンク

公益社団法人才能教育研究会
国際スズキ協会
アメリカスズキ協会
ヨーロッパスズキ協会
イタリアスズキ協会
台湾スズキ協会

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