鉄道車両の愛称

鉄道車両は、識別のため一つ一つに固有の車両番号が与えられ、さらに種類ごとにまとめて形式が定められています。しかし、これらの公式な呼び方とは別に、親しみを込めて「愛称」で呼ばれることがあります。この愛称は、鉄道車両だけでなく、船舶やバス、航空機といった他の交通機関でも見られる慣習です。

鉄道車両の愛称が生まれる背景にはいくつかのパターンがあります。一つは、鉄道事業者が利用者へ車両への親しみを持ってもらう目的で、公募などを通じて正式に定めたものです。一方で、鉄道ファンなどの間で自然発生的に名付けられ、それが広く定着したケースも少なくありません。例えば、特定の非営業用車両がファンによってユニークな愛称で呼ばれるといった例があります。また、車両自体の愛称と、その車両が使われる列車（営業用の運行形態）の愛称が全く同じであるために、しばしば混同されることもあります。

愛称の付け方には、国や地域によって傾向が見られます。日本では、特定の車両形式全体に対して愛称を命名することが一般的です。個々の車両番号に対して愛称を付ける例は限られており、歴史的な車両（明治期の弁慶号など）や、かつて存在したお座敷列車用客車、あるいは保有車両数が少ない地方の私鉄やケーブルカーの車両などに見られる程度です。これに対し、ヨーロッパやアメリカでは、特に機関車や寝台車などの個別の車両ごとに愛称が与えられるのが普通でした。イギリスの鉄道黎明期に活躍した蒸気機関車であるロコモーション号やロケット号などがその代表例です。

愛称の変遷と事例

日本の鉄道史を振り返ると、車両愛称の文化は時代と共に変化してきました。

国鉄時代には、特定の車両形式が最初に導入された列車名や、その形式を代表する列車の名前を取って愛称とされることが多く見られました。例えば、キハ55系気動車は「日光形」、80系電車は「湘南形」、151系電車は「こだま形」、581系・583系電車は「月光形」などと呼ばれました。これらの愛称は鉄道ファンだけでなく、国鉄内部でも広く使われていたと言われています。しかし、485系やキハ58系のように、一つの形式で非常に多くの種類の列車が運行されるようになると、特定の代表列車を挙げることが難しくなり、このような列車名に由来する愛称の付け方は583系辺りを最後に廃れていきました。列車名以外に由来する愛称としては、オレンジ色に塗られた車体色から、当時の女性職員（BG）が101系電車を「きんぎょ」と呼んだ例があります。

JR化後の初期には、「サンライズエクスプレス」や「オーシャンアロー」、「ハイパーサルーン」といった愛称を持つ特急形車両が登場しました。しかし、その後は列車ごとに独自の車両形式が製造されるケースが増えたため、観光用などに特化した「ジョイフルトレイン」を除き、車両に愛称が付けられることは減少傾向にあります。一方で、国鉄時代にはあまり見られなかった動きとして、線路や架線などの状態を調べる検測用車両や、新しい技術を試す試験用車両に愛称が付けられるようになりました。「East i」や「ドクターイエロー」、「ドクター東海」といった検測車、あるいは新幹線の高速試験車「FASTECH」などがこれにあたります。また、これまで個別の愛称を持つことが少なかった機関車にも愛称が付されるようになり、JR貨物では「桃太郎」を皮切りに多くの機関車が愛称で呼ばれるようになりました。

私鉄や公営・第三セクター鉄道においても、車両独自の愛称が見られますが、JRと同様の傾向を持つものが多いです。東武鉄道の100系電車「スペーシア」などがその例です。また、近畿日本鉄道や名古屋鉄道のように、多数の優等列車を運行する中で、列車名ではなく車両の愛称を前面に出して乗客にアピールする戦略をとっているケースもあります。「ビスタカー」や「パノラマカー」といった愛称が広く知られています。地方の私鉄や第三セクター鉄道では、沿線地域の名称や特色にちなんだ愛称が付けられることもあります。さらに、日本宝くじ協会の助成を受けて導入された車両には、「宝くじ号」と表記される慣習があります。個々の車両に愛称が付けられた珍しい例としては、わたらせ渓谷鐵道や錦川鉄道の気動車、あるいは広島電鉄の1900形電車（元京都市電）に京都の名所にちなんだ愛称（「嵐山」「銀閣」など）が車両ごとに付けられたケース、大分交通が多数の気動車に鳥類の愛称（「やまばと」「かわせみ」など）を与えたケースなどが挙げられますが、これらは例外的な部類に入ります。

海外の例

海外では、イタリアのETR300型電車「セッテベロ」がよく知られています。これは7両編成であることからトランプの「ダイヤの7」にちなんで名付けられた愛称で、後にこの車両が使用される列車名にも採用されました。ETR250型電車には「アレッチーノ」、そして振り子装置を備えたETR450型をはじめとする車両群は総称として「ペンドリーノ」という愛称で知られています。

鉄道車両の愛称は、単なる識別の手段を超え、車両の個性や歴史、地域性、さらには運行事業者や利用者の思いを反映した、豊かな鉄道文化の一側面と言えるでしょう。

関連項目

列車愛称
鉄道の車両番号

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