鉄道院基本形客車

鉄道院基本形客車：日本の客車史における礎

鉄道院基本形客車は、日本国有鉄道の前身である鉄道院が1910年から1917年にかけて製造した、鉄道国有化後初の制式木造ボギー式客車形式群です。この客車群は、当時の日本の鉄道車両技術の粋を集め、その後の国鉄客車の標準規格を確立する上で重要な役割を果たしました。

概要

1906年から1907年にかけて行われた私設鉄道の国有化により、鉄道庁が設置されました。しかし、当時保有していた客車の多くは小型の2軸・3軸車であり、大型ボギー車への置き換えが急務でした。そこで、鉄道院は客車の標準設計を策定し、1910年に「客車郵便車手荷物車工事仕様書」を制定。この仕様書に基づいて製造されたのが、6810形（三等車）を基幹とする基本形客車です。

基本形客車の設計は、鉄道作業局時代に新橋工場が製造したボギー客車群を参考にしつつ、車軸発電機による電灯の標準採用や車体寸法の大型化など、新たな技術や構造を取り入れました。これにより、以後の国鉄客車の標準規格が確立され、輸送計画上の基準となりました。

車体

基本形客車の車体は、当時の車両限界に従い、最大幅2.7m、車体幅2.6mの木造構造を採用。車体長17mの2軸ボギー車（基本2AB車）と、20m級の3軸ボギー車（基本3AB車）の2種類が存在しました。20m級の基本3AB車は主に幹線で使用される優等車に限定され、大半は17m級の基本2AB車として製造されました。

台枠は、一部の例外を除き構造が規格化された新規設計品を採用。17m級がUF11、20m級がUF41と呼称されました。いずれの形式も、車端のデッキ部に客用扉を設けた密閉式デッキとなっており、妻面は三面折れ妻構造、屋根は二重屋根（ダブルルーフ）が標準でした。

室内灯は、車軸発電機と蓄電池による電灯が標準採用され、従来のガス灯や油灯を使用していた客車と比較して、安定した室内照度を確保することができました。

主要機器

台車

2軸ボギー台車としては、明治41年式4輪ボギー台車を基本としつつ、軸距を延伸した明治42年式4輪ボギー台車や、側枠を改良した明治44年式4輪ボギー台車などが採用されました。一方、優等車用の3軸ボギー台車は、明治44年式6輪ボギー台車が採用され、細部に改良を加えながら継続使用されました。

ブレーキ

当初は真空ブレーキと手ブレーキが併用されましたが、1921年後半以降は自動空気ブレーキとの併用が開始。1930年代初頭までに真空ブレーキは撤去され、全車が自動空気ブレーキを装備することで安全性が向上しました。

連結器

当初はねじ式連結器を使用していましたが、1925年7月に全車とも自動連結器へ交換されました。

形式

基本形客車には、様々な用途に対応するため、多種多様な形式が存在しました。以下に、主な形式を紹介します。

職用車: 5016形、5017形、5030形など、職員の休憩や業務に使用された車両。
特別車・展望車: 9010形、9011形など、皇族や外国からの賓客などの特別な旅客のために用意された車両。
一二等寝台車: 5480形など、一等車と二等車の寝台設備を備えた車両。
一等寝台一等車: 5035形など、一等寝台と一等座席を備えた車両。
一等寝台二等車: 5040形、5135形など、一等寝台と二等座席を備えた車両。
二等寝台車: 5110形など、二等寝台のみを備えた車両。
二等寝台二等車: 5120形など、二等寝台と二等座席を備えた車両。
食堂車: 5065形など、食事を提供する設備を備えた車両。
一等車: 5100形など、一等座席のみを備えた車両。
一二等車: 5335形など、一等座席と二等座席を備えた車両。
二等車: 5535形など、二等座席のみを備えた車両。
二三等車: 5780形、5850形、5885形など、二等座席と三等座席を備えた車両。
三等車: 6810形、7570形など、三等座席のみを備えた車両。
郵便荷物車: 8745形など、郵便物と荷物を輸送するためのスペースを備えた車両。
荷物車: 8900形など、荷物輸送専用の車両。
御料車: 6号御料車、7号御料車、8号御料車、9号御料車など、皇族が乗車するための特別な車両。

終焉

基本形客車は、1940年代後半まで日本の鉄道輸送を支えましたが、1949年以降に製造が開始された鋼体化改造車60系の種車として利用されたり、台枠を切継用資材として利用されたため、その数を急速に減らしました。1950年代後半までにはほぼ全車が廃車解体されましたが、一部の車両は救援車に改造されたり、地方民鉄に売却されたりしました。しかし、これらの車両も1960年代前半には姿を消し、基本形客車の歴史は幕を閉じました。

結論

鉄道院基本形客車は、日本の鉄道車両史において非常に重要な存在です。国有化後の鉄道院が初めて製造した制式客車として、その設計思想や技術は後の国鉄客車に大きな影響を与えました。また、多種多様な形式が存在し、様々な用途に対応していたことも特徴です。基本形客車は、日本の鉄道輸送の近代化に大きく貢献したと言えるでしょう。

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