鉄鐸

鉄鐸（てったく）

鉄鐸とは、古代日本で使用された鉄製の祭祀用具です。文献によっては「佐那伎（さなき）」または「佐奈伎（さなぎ）」の鈴とも呼ばれています。

構造と特徴

鉄鐸は、銅鐸が鋳造で作られるのに対し、鉄板を丸めて作られる点が大きな違いです。そのため、円錐形に似た形状を持つこともありますが、その構造は銅鐸とは根本的に異なります。共通点としては、内部に舌（ぜつ）を吊り下げる構造が挙げられます。

歴史

銅鐸は弥生時代の遺物として知られていますが、鉄鐸は古墳時代以降のものしか発見されていません。また、平安時代の遺物も見つかっており、比較的長い期間使用されていたと考えられます。

文献記録

• - 古語拾遺: 天照大神が天岩戸に隠れた際、天目一箇神が様々な刀斧とともに鉄鐸（佐那伎）を作ったと記されています。天鈿女命がこの鉄鐸をつけた矛を持って踊ったとされています。
• - 古事記: 顕宗天皇が、父の遺骸を発見した置目老嫗を宮の近くに住まわせ、大殿の戸に鐸（ぬりて）を懸けて、老嫗を呼ぶ際に鐸を鳴らしたという記述があります。
• - 延喜式: 鎮魂祭の記述に「鈴二十口」と並んで「佐奈伎二十口」という記載が見られます。

伝世品

鉄鐸の伝世品は、長野県に集中して見られます。また、『神社覈録』には、伊豆国那賀郡の箕勾神社に「大小の鐸二」という記述があります。

諏訪大社上社

諏訪大社上社には、「さなぎの鈴」または「御宝鈴」と呼ばれる鉄鐸が伝わっています。6個1組で3組が確認されており、長さは14～20cmです。これらは諏訪市指定有形文化財となっています。正平11年（1356年）の『諏訪大明神画詞』には、大御立座神事（現在の御頭祭）で「御宝」として用いられたと記載されています。戦国時代には、土地の争いに関する誓約の際に鳴らされ、礼銭が支払われたという記録もあります。

諏訪大社神長官守矢氏鐸

諏訪大社神長官守矢氏に伝わる鉄鐸は、6口1組で大きさが揃っており、長さは17.3cmです。これらの鉄鐸は、元々諏訪大社上社に保管されていたものが、上社へ移管される際に写しを取られたものと考えられています。

小野神社

塩尻市の小野神社には、「神代鉾」と呼ばれる鉄鐸が伝わっています。これは、1m70cmほどの棒の先に鉄製の剣がついており、11口の鉄鐸が結わえられています。また、剣の下には鉄鈎が2つ付けられており、麻和幣が飾られています。鉄鐸の長さは9～19cmと不揃いで、諏訪大社上社のものよりも粗雑な作りです。現在は12口の鉄鐸があり、「小野神社の鐸鉾」として塩尻市指定有形文化財となっています。

矢彦神社

小野神社に隣接する矢彦神社にも、同様の形態の鉾が伝わっていますが、鉄鈎はなく、鉄鐸は1口のみです。他の伝世品の鉄鐸が6口1組であることから、小野神社の鉄鐸から譲られたものと考えられています。

その他

東筑摩郡朝日村の五社神社には「五社神社鉄鐸と鉄鉾」が、北安曇郡白馬村の嶺方諏訪神社には、木製の鉾に6口の鉄鐸が付けられたものが所蔵されています。

出土品

鉄鐸の出土例で最も古いものは、5世紀後半の岡山県の西吉田北1号墳です。古墳時代の鉄鐸は福岡県での出土が多く、その他、群馬県、長野県、愛知県、京都府、奈良県、大阪府、兵庫県、愛媛県、佐賀県、宮崎県などで発見されています。出土した鉄鐸の多くは長さ6cm前後であり、10cm以上のものはほとんどありません。平安時代の鉄鐸は長野県で多く出土しており、群馬県でも発見されています。また、韓国でも鉄鐸の出土例があり、鋳造製の鉄鐸も確認されています。

まとめ

鉄鐸は、古代日本の祭祀において重要な役割を果たしていたと考えられます。文献記録、伝世品、出土品を通じて、その歴史と変遷を辿ることができ、地域や時代によって異なる特徴を持つことがわかります。特に長野県には多くの伝世品や出土品が見られ、この地域で鉄鐸が重要な役割を担っていたことが示唆されます。

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