鉛の時代 (イタリア)

「鉛の時代」（イタリア語: Anni di piombo、英語: Years of Lead）は、1960年代末から1980年代にかけてイタリアを覆った、テロリズムが頻発し、社会が深く混乱した時代を指します。この時代は、冷戦という国際的な背景のもと、国内の政治対立が激化し、暴力的な抗争が繰り返された暗黒の時代でした。

名称の由来

「鉛の時代」という名称は、テロに使用された鉛玉、そして同時代のドイツを舞台にしたマルガレーテ・フォン・トロッタ監督の1981年の映画『鉛の時代』に由来しています。この名称は、冷戦時代にアメリカとソ連が緊張状態を維持するために行ったとされるテロ活動や、独裁政権を支援したコンドル作戦のような国際的な背景も包含しています。

時代の概要

この時代は、イタリア国内における社会主義勢力や新左翼運動の台頭、そしてそれに対抗するアメリカやイタリア政府などの西側勢力による抗争が中心でした。これは冷戦の一環として発生したものであり、東西の対立がイタリア国内にも色濃く反映された結果と言えるでしょう。

「鉛の時代」の始まりについては諸説ありますが、1968年の抗議運動、1969年の「熱い秋」、そして1969年のフォンターナ広場爆破事件などが起点として挙げられます。この時代は、「闘争は続く」「最前線」「赤い旅団」といった暴力的な新左翼運動や学生運動、そしてそれに対抗する「武装革命中核」「新秩序」「国民前衛」などのネオ・ファシストの活動によって特徴づけられます。特に、ネオ・ファシストは、イタリア政府やNATOによるグラディオ作戦の支援を受け、大規模な虐殺を繰り返しました。1968年から1974年の間だけでも140件もの事件が発生しています。

主な事件

以下は、「鉛の時代」を象徴する特に著名な事件です。

1969年12月12日：フォンターナ広場爆破事件（死者17人、負傷者88人）
1970年7月22日：ジョイア・タウロ虐殺事件（死者6人、負傷者66人）
1972年5月31日：ペテアーノ虐殺事件（死者3人、負傷者2人）
1973年5月17日：ミラノ警察本部虐殺事件（死者4人、負傷者52人）
1974年5月28日：ロッジャ広場虐殺事件（死者8人、負傷者102人）
1974年8月4日：イタリクス虐殺事件（死者12人、負傷者105人）
1980年8月2日：ボローニャ駅爆破テロ事件（死者85人、負傷者200人）

これらの事件は、イタリア社会に深い傷跡を残しました。

政治腐敗と秘密組織

これらの事件の背景には、反共組織であるロッジP2の存在がありました。ロッジP2は、各国情報機関やイタリア政界、軍関係者と密接な関係を持ち、裏で暗躍していました。この事実が後にP2事件として明るみに出ることとなり、政治腐敗の深刻さが露呈しました。

また、「赤い旅団」による1978年のアルド・モーロ誘拐殺人事件は、「鉛の時代」を象徴する事件の一つであり、この事件を機に同組織はテロ組織として世界的に知られるようになりました。

主要人物

この時代に関与した主要人物には、以下のような人々がいます。

イタリア政府関係者:
アルド・モーロ（†）
フランチェスコ・コッシガ
マリアーノ・ルモール
フランコ・レスティボ
エミリオ・コロンボ
ヴィルジニオ・ロニョーニ
アルナルド・フォルラーニ
極左主義者:
赤い旅団:
レナート・クルシオ
マルゲリータ・カーゴル（†）
アルベルト・フランチェスキーニ
最前線:
マルコ・ドナト＝カッティン
10月22日:
マリオ・ロッシ
イタリア共産党:
ジャンジャコモ・フェルトリネッリ（†）
PAC:
チェーザレ・バティスティ
闘争は続く:
アドリアーノ・ソフリ
労働者の力 / 労働者自治運動:
フランコ・ピペルノ
アントニオ・ネグリ
オレステ・スカルゾーネ
ランフランコ・ペース
エミリオ・ヴェシェ
極右主義者:
新秩序:
フランコ・フリーダ
ピエルイジ・コンクテッリ
マリオ・トゥティ
国民前衛:
ステファノ・デッレ・キアイエ
アドリアーノ・ティルガー
ヴィンチェンツォ・ヴィンチグエッラ
黒の教団:
ファブリツィオ・ザーニ
武装革命中核:
ジュゼッペ・ヴァレリオ・フィオラヴァンティ
アレッサンドロ・アリブランディ（†）
マッシモ・カルミナティ
フランコ・アンセルミ（†）
第三の位置:
ロベルト・フィオレ
ガブリエレ・アディノルフィ
ロッジP2:
* リーチオ・ジェッリ

「鉛の時代」は、イタリア史における暗く、複雑な時期であり、その影響は今日にも及んでいます。この時代を理解することは、現代イタリアの政治と社会を理解する上で不可欠です。

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