銀杏髷

銀杏髷

江戸時代を通じ、男性が最も一般的としていた髪型の一つが「銀杏髷」（いちょうまげ）です。別名を「銀杏頭」とも称されました。現代の時代劇などで、この銀杏髷がしばしば「ちょんまげ」と呼ばれることがありますが、本来「丁髷」とは、髪の量が少ない高齢者などが結う質素な髷を指し、その形状は銀杏髷とは異なります。

銀杏髷を結う基本的な方法は、まず前頭部から頭頂部にかけて「月代」（さかやき）と呼ばれる部分を剃り上げます。そして、残った髪全体をまとめて束ねた「髻」（たぶさ、もとどり）を、頭頂部へと折り返します。この折り返された髷の先端部分は「刷毛先」と呼ばれ、その形をイチョウの葉のように広げるのが特徴ですが、必ずしも広げずにまとめたままの場合もありました。この髪型は、結う人の身分や職業によって、さまざまな細かな違いが見られました。また、女性の髪型である島田髷にも、同じ「銀杏髷」という名称のバリエーションが存在しました。

武家における銀杏髷

武家の男性が結う銀杏髷には、彼らの生活様式や価値観を反映した特徴がありました。一般的に、髷は長く結われ、月代の剃る範囲は狭く、側頭部の生え際である「小鬢」は自然なままに残されました。うなじ部分の髪「髱」（たぶさ、つと）はしっかりと撫で付けられ、全体として質実剛健な印象を与えるスタイルでした。

多くの武士に好まれたのは、「大銀杏」と呼ばれるスタイルです。これは、髷の折り返し部分の根本にあたる「髷尻」が後頭部より真っ直ぐ後ろに突き出るのが特徴でした。町人の銀杏髷よりも髷が長く、刷毛先は頭頂部に触れるほどで、ほとんど潰れることなくその形を保っていました。ただし、一部の洒落者を除き、多くの武士は大銀杏を好む一方で、「浅黄裏」のような野暮ったいものと見なされることもありました。田舎の藩主などの中には、さらに野暮ったいとされる、頭頂部より前に大きくのめり出すような、まるで蒲鉾を貼り付けたかのように太く長い髷を誇示するかのように結う者もいたとされます。

しかし、武士の中でも、特定の任務に就く者は異なるスタイルを選ぶこともありました。例えば、町奉行所や町方取締部署に属する与力や同心は、職務上、町人に変装する必要があったため、町人と同じように生え際を直線的に剃り落とす者もいました。彼らは「江戸の三男」と称されるような、粋な人物像にふさわしい装いをしていたと言われています。

さらに、町人の中に住み込んで犯罪捜査にあたる「不浄役人」と呼ばれる与力などは、より町方風で粋な銀杏髷を結んでいました。これは「細刷毛小銀杏」と呼ばれ、髷尻が短く、髷自体も短くて細いのが特徴です。月代の剃り込み範囲が広くさっぱりとしており、刷毛先を軽く広げて結いました。このスタイルは、町人とも武士とも見分けがつきにくく、現代で言えば私服で捜査にあたる刑事のような役割を担っていた彼らの姿を表していました。一方で、同じ街中で暮らす浪人の中には、節約のためか月代をきれいに剃らず、五分刈りのまま伸ばしていた者もいました。彼らの髱にはわずかに膨らみを持たせる傾向がありました。

町人における銀杏髷

町人、とりわけ「江戸っ子」は、髪型に対する関心が高く、頻繁に散髪屋に通いました。そのため、散髪屋は単に髪を結う場所ではなく、重要な社交場となるほどでした。彼らの間で好まれたのは、主に「小銀杏」と呼ばれるスタイルでしたが、ここでも職業によって微妙な違いが見られました。

商人は客商売であることから、控えめで小さな髷を結う傾向がありました。正面から見ると髷先がちらりと見える程度で、頭から落ちかかっているような印象を与えたり、髷尻もぽっちりとして短く小さかったりしました。これに対し、商家の息子である若旦那などは、より細く優美な「本多髷」を好んで結ぶ者もいました。

一方、伝法肌の職人は、男らしさを強調するような結い方を好みました。髷尻は短く反り上がり、全体に太く短い髷の先を散らして結い上げました。これとは対照的に、すっきりとした髷を好む職人もおり、彼らは細い髷を結び、刷毛先を粋に少し曲げるなどの工夫を凝らしました。町人の銀杏髷の髱は、うなじの下を膨らませる「袋付」とする場合が多く見られました。

少女の銀杏髷

銀杏髷は男性だけでなく、特定の時期の少女の髪型としても用いられました。およそ6歳から8歳頃まで、少女は「芥子坊主」（けしぼうず）と呼ばれる坊主頭にすることが多かったのですが、この時期を過ぎると髪を伸ばし始めます。十分に髪が伸びて、結綿や桃割れ、稚児髷などの他の結髪ができるようになるまでの間、過渡期の髪型として銀杏髷や「銀杏崩し」（関西地方では「竹の節」とも呼ばれました）を結いました。この髪型を結う期間には、少女の眉を剃る習慣がありました。

手古舞の髪型

現在、祭りで若い女性が扮することが多い手古舞（てこまい）は、元々は芸者が男装する際の髪型に由来します。その髪型は、前髪を膨らませずに中央で分けて左右に振り分けるのが特徴です。髷は非常に太く結われ、特に刷毛先を非常に太く膨らませるスタイルです。しかし、全体的な印象には、女性的な要素も残されていました。

関連事項

江戸時代後期に江戸の町で流行した銀杏髷の一種に「鯔背銀杏」（いなせいちょう）がありました。これは、魚の鯔（イナ、ボラの若魚）の背の形に似ていることから名付けられたとされ、現在使われている「いなせ」という言葉の語源ともなっています。また、幕府の兵学所である講武所も関連する歴史的背景を持つ機関です。

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