銭弘俶

銭弘俶（せん こうしゅく）：呉越最後の王、文化と信仰に生きた生涯

銭弘俶（929年 - 988年）は、五代十国時代の呉越の第5代にして最後の王です。文穆王銭元瓘の九男として生まれ、激動の時代を生き抜き、呉越の文化・経済の発展に大きく貢献しました。彼の生涯は、政治的な決断、文化への貢献、そして仏教への深い信仰によって特徴づけられます。

生い立ちと即位

銭弘俶は宝正4年（929年）に杭州で生まれました。兄である銭弘佐、銭弘倧が相次いで王位を継承した後、天福12年（947年）に台州刺史に任じられます。しかし、現地の僧、天台徳韶から杭州に戻るように勧められ、その言葉に従い帰還。その年のうちに、軍部のクーデターにより兄の銭弘倧が廃位されると、異母弟である彼が擁立され、呉越王の座に就きました。

治世と帰順

即位後、銭弘俶は内政の安定に努めました。弟の銭弘億を丞相に任じ、政治を任せます。また、兄の暗殺を進言した胡進思の要求を拒否するなど、冷静な判断力も示しました。外交面では、周辺諸国との関係に腐心。当初は南唐との関係が悪化しましたが、策略をもって撃退に成功しています。

しかし、北宋が台頭し、南唐を降伏させると、呉越の立場は危うくなります。銭弘俶は、民の生活を守るため、太平興国3年（978年）に自ら開封に赴き、呉越の領土を献上することを決意。これにより、呉越は北宋に帰順し、銭弘俶は淮海国王に封じられました。この決断は、領民を戦火から守り、その後の安定をもたらすことになります。

文化と仏教への貢献

銭弘俶は、文化の振興と仏教の保護に力を注ぎました。国内の農業、製塩業、商業を奨励し、国際海上貿易を推進して国を豊かにしました。また、天台徳韶を国師として迎え、自らも菩薩戒を受けるなど、仏教への信仰を深めます。阿育王塔（銭弘俶塔）を各地に奉納、多くの寺院を建立するなど、仏教文化の発展に大きく貢献しました。

特に、高麗や日本に天台経典を求めるなど、文化的な交流にも積極的でした。彼の仏教への貢献は、現代においても高く評価されています。

死後

銭弘俶は、雍熙4年（987年）に南陽国王に封じられ、その後、許王、鄧王と改封されました。端拱元年（988年）に鄧州で薨去。彼の死後、銭一族は北宋の官僚として活躍し、その血脈は長く受け継がれました。

銭弘俶は、激動の時代を生き抜き、呉越の文化・経済の発展に貢献した王として、歴史に名を刻んでいます。彼の決断と行動は、現代においても教訓として語り継がれています。

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