銭鳳

銭鳳（せん ほう）

銭鳳は、東晋初期に王敦に仕えた人物で、その知略をもって王敦の乱を陰で支えたことで知られています。彼の生涯は、王敦の台頭と共に始まり、その没落と共に終わりを迎えました。

生涯

銭鳳は呉興郡武康県の出身で、字を世儀といいました。早くから王敦に見出され、その才能を高く評価されていました。陶侃の功績を妬み、王敦に讒言したことが記録に残っています。これにより、陶侃は広州へと左遷されることになります。

大興3年（320年）には、王敦の参軍であった沈充の推薦で鎧曹参軍に任じられました。この頃から、王敦の野望に賛同し、様々な策略を練るようになります。王敦は銭鳳と沈充の意見を重用し、彼らの進言に従って政治を動かしていきました。

湘州刺史の司馬承が赴任の途上で王敦のもとを訪れた際、王敦は銭鳳に「司馬承は無能である」と語りました。これは、銭鳳が司馬承を軽んじていたことを示唆しています。

永昌元年（322年）には、沈充と共に王敦の主要な謀臣として活躍しました。

太寧元年（323年）には、王敦が忌み嫌っていた尚書令の郗鑒を殺害しようとする動きがありましたが、銭鳳は郗鑒が名士であるという理由で反対しました。

王敦の従子の王允之が、王敦と銭鳳の密謀を偶然耳にし、その内容を王舒を通じて司馬紹に伝えました。これにより、朝廷は王敦に対する備えを始めることになります。

また、銭鳳は周札一族の隆盛を妬み、沈充を利用して彼らを滅ぼそうとしました。王敦に対し、「周氏と沈氏は勢力が強く、将来的に争う可能性がある。周氏を先に排除するべきだ」と進言し、王敦に周札一族を冤罪で滅ぼさせました。

太寧2年（324年）に王敦が病に倒れると、銭鳳は王敦に後事を託す相手について意見を求めました。王敦は、自身の死後に兵を解散して朝廷に帰順することを最上策とし、武昌に戻って兵をもって守ることを中策、全軍を挙げて攻め下ることを下策としました。しかし、銭鳳は「公の下策こそ上策である」と言い、沈充と共に王敦の死後に反乱を起こすことを決意しました。

王敦は中書令の温嶠を自身の左司馬に迎えましたが、温嶠は銭鳳に取り入り、その歓心を買おうとしました。温嶠は銭鳳を褒め称え、彼との親交を深めました。そして、王敦に温嶠を丹陽尹に任じるよう進言させました。

温嶠が丹陽尹に任じられて建康へ向かう際、銭鳳は彼を引き留めようとしましたが、温嶠は酔ったふりをして銭鳳を侮辱し、建康へと旅立ちました。その後、銭鳳は王敦に「温嶠は朝廷と通じている」と告げましたが、王敦はこれを信じませんでした。

温嶠は建康で王敦の謀略を暴露し、王敦討伐の準備を進めました。そして、王敦討伐の詔が下ると、王敦は銭鳳らに建康攻撃を命じました。

銭鳳は王敦に対し、事が成った場合の天子の扱いについて質問しました。王敦は「皇帝を名乗るつもりはない。兵の勢いをもって東海王を迎える」と答えました。

しかし、朝廷軍の奇襲により王敦軍は敗北し、王敦自身も憤死しました。沈充が残りの兵を率いて抵抗を試みましたが、朝廷軍の勢いを止めることはできませんでした。

最終的に、銭鳳は闔廬洲で周光に斬られ、その首は朝廷に送られました。

人物・逸話

銭鳳は、沈充と共に媚びへつらいが上手く、悪賢い人物として評されています。王敦が権力を握ると、銭鳳らは驕り高ぶり、思うがままに殺戮を行いました。人々の家や田畑を侵し、古人の墓を掘り起こし、市道で略奪を行ったため、人々は彼らの没落を予見していました。

王敦討伐の詔では、銭鳳は乱の首謀者として名指しされ、「銭鳳を殺し、首級を送った者は5千戸侯に封じる」と宣言されました。

王敦の乱が平定された後、温嶠は銭鳳の母が老齢であることを考慮し、彼女を許すように朝廷に上奏しました。

銭鳳は、その知略と悪行によって歴史に名を残した人物と言えるでしょう。

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