陶侃

陶侃（とう かん）

陶侃（259年 - 334年）は、西晋から東晋にかけて活躍した武将です。字は士行（しこう）。鄱陽郡鄡陽県（現在の江西省波陽県）の出身で、父は呉の武将でした。その生涯は、反乱の鎮圧や内政の手腕に彩られ、東晋初期の安定に大きく貢献しました。

貧困からの出発

陶侃は幼い頃に父を亡くし、家は貧困を極めました。母は機織りで生計を立てながら、陶侃に学問を奨励し、道徳を重んじて育てました。成長した陶侃は、県の役人としてそのキャリアをスタートさせます。

ある時、范逵（はんき）という人物が陶侃の家を訪れましたが、陶侃は何も持て成すものがありませんでした。すると、陶侃の母は自分の髪を切って酒と料理を用意し、范逵をもてなしました。この逸話は、陶侃の母の賢明さと、彼を支える強い意志を物語っています。范逵の推薦により、陶侃は才能を認められ、役人としての道を歩み始めます。

反乱の鎮圧

303年、張昌（ちょうしょう）の反乱が勃発すると、陶侃はその鎮圧に奔走します。劉弘（りゅうこう）の下で先鋒を務め、数々の戦いで勝利を収めました。その功績により、東郷侯に封じられます。その後も、陳敏（ちんびん）の反乱鎮圧に尽力し、その武勇を天下に示しました。

313年、杜弢（ととう）の反乱が起こると、陶侃は討伐を命じられます。周訪（しゅうほう）や趙誘（ちょうゆう）といった将軍を指揮下に置き、反乱軍を打ち破りました。しかし、部下の裏切りにより一時免官されるも、王敦（おうとん）の推薦で職務に復帰し、再び反乱鎮圧に乗り出します。最終的に、杜弢の乱を鎮圧し、その名をさらに高めました。

広州への左遷と復帰

杜弢の乱鎮圧後、陶侃の功績を妬んだ王敦によって広州刺史に左遷されます。しかし、広州でもその手腕を発揮し、反乱を鎮圧するなど、着実に実績を重ねました。

王敦が反乱を起こすと、陶侃は王敦討伐に加わり、その鎮圧に貢献します。その後、荊州刺史に復帰し、荊州の安定に尽力しました。

内政手腕

陶侃は、武将としてだけでなく、内政家としても優れた才能を発揮しました。荊州刺史として、社会秩序の安定と農業生産の発展に力を注ぎました。飢饉の際には、米を買い上げて安く庶民に分け与え、民を救済しました。また、異民族との交易を盛んにし、経済の発展にも貢献しました。

晩年

晩年、陶侃は朝政への関与を減らし、故郷に帰ることを望むようになりました。しかし、周囲の強い慰留により、職務を継続しました。334年、病に倒れた陶侃は、後事を託して亡くなりました。享年76歳。その死後、成帝（せいてい）から桓公（かんこう）の諡号（しごう）を贈られました。

人物像と故事成語

陶侃は、その雄毅な性格と優れた決断力で人々を魅了しました。また、故事成語にもその名が残っています。

陶侃運甓（とうかんうんぺき）: 陶侃が毎朝瓦を運び、夕方にそれを戻すという奇妙な行動をとっていたという故事から、常に心身を鍛錬することの重要性を説いています。
珍惜光陰（せきじゃくこういん）: 陶侃が時間を大切にしていたという故事から、寸暇を惜しんで努力することの重要性を説いています。
* 竹頭木屑（ちくとうぼくせつ）: 陶侃が竹の切れ端や木屑を大切に保管していたという故事から、どんなものでも無駄にせず、有効活用することの重要性を説いています。

これらの故事成語は、陶侃の人物像をよく表しており、現代にも通じる教訓を含んでいます。

陶侃の死後

陶侃の死後、その軍団は西府軍団として東晋の重要な軍事組織となりました。詩人の陶淵明（とうえんめい）は、陶侃の曾孫にあたります。

陶侃は、その武勇と内政手腕によって、東晋初期の安定に大きく貢献した名将として、後世に語り継がれています。

評価

尚書の梅陶（ばいとう）は、陶侃を「神のような機略と優れた見識は魏武（曹操）の如し、忠順にひたすら勤労に励んだことは諸葛孔明のようである」と絶賛しました。

謝安（しゃあん）は、「陶公は法をうまく用いるが、常に法にとらわれない考えも持ち合わせていた」と評しました。

房玄齢（ぼうげんれい）は、「陶侃は勤王の士であり、先鋒部隊を自ら率いてよく戦場を駆け巡った。文・武・忠の三つを良く遵守し、天下を一つにまとめるという功績を打ち立てた」と評しました。

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