錦ヶ浦

錦ヶ浦（にしきがうら）は、静岡県熱海市の中心市街地から南へ延びる海岸線に位置する、険しい断崖に囲まれた風光明媚な地域を指す名称です。

この地は、太古の多賀火山活動における浅い海底での噴出物が観察できるという地質的な特徴を持ちます。海岸線に沿って切り立った岩肌が連なるその壮大な景観は、古くから景勝地として知られ、過去には多くの映画やテレビドラマの舞台、あるいはロケーション撮影地として選ばれてきました。

現在、錦ヶ浦周辺の土地は、その大部分が観光事業者であるホテルニューアカオの所有となっています。同社はこの広大な敷地を活用し、宿泊施設やカフェなど、多岐にわたる観光施設を整備しており、熱海における主要な観光エリアの一つとなっています。

地理

錦ヶ浦周辺には、国道135号線が走っています。海岸線の起伏に沿って走る旧道と、やや内陸側を直線的に通過する新道があります。熱海市街地から南下する場合、旧道には明治時代に開通した歴史ある「観魚洞隧道（かんぎょどうずいどう）」というトンネルがあります。一方、新道は「錦ヶ浦トンネル」と「曽我浦トンネル」という二つのトンネルで断崖地帯を通過します。

これらのトンネルは、海岸線の地域名称の区切りとしても機能しています。「観魚洞隧道」または「錦ヶ浦トンネル」の手前あたりまでが「魚見崎（うおみさき）」と呼ばれ、これらのトンネルを抜けた後、「曽我浦トンネル」に至るまでの断崖周辺が一帯となって「錦ヶ浦」と称されます。「曽我浦トンネル」のさらに南側は「曽我（そが）・曽我浦（そがうら）」と呼ばれる地域となります。

錦ヶ浦自体は、国道135号旧道沿いに特に顕著に突き出した二つの岬で構成されているのが基本的な捉え方です。北側に位置する岬は「錦崎（にしきざき）」、南側の岬は「扇崎（おうぎざき）」と呼ばれています。これら二つの岬（あるいはその基部を通るトンネル）の間に位置する、海岸線がやや凹んだ地形のエリアは、主にホテルニューアカオ（アカオリゾート公国）の駐車場として利用されています。

北側の「錦崎」周辺には、ホテルニューアカオの本館や、同グループのホテル「ロイヤルウイング」が立地しています。さらに、その背後の山（八幡山）を登った高台には、アタミロープウェイの山頂駅、熱海秘宝館、そして熱海城といった著名な観光施設が集まっています。

一方、南側の「扇崎」には、ホテルニューアカオが運営するカフェ「花の妖精」があります。このカフェは「伊豆一の絶景カフェ」を謳っており、扇崎からの眺望を楽しめる場所として人気を集めています。

アクセス

公共交通機関を利用する場合、JR熱海駅から伊豆東海バスの網代旭町行きに乗車し、「錦ヶ浦」停留所で下車するのが一般的です。

作品の舞台として

その dramatic な景観から、錦ヶ浦は古くから映像作品や文学作品の舞台として登場しています。例えば、1951年の映画『伊豆物語』や1961年の映画『黄色い風土』、さらには1962年の特撮映画『キングコング対ゴジラ』などが、この地をロケーションとして使用しました。また、三島由紀夫の短編小説『陽気な恋人』（1953年発表）にも、この景勝地の描写が登場します。

錦ヶ浦は、その特異な地形と歴史、そして現代的な観光開発が融合した、熱海を代表する景観地の一つと言えるでしょう。

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