鍾乳石

鍾乳石:洞窟の神秘を彩る造形美



鍾乳石は、洞窟の天井や壁、床などに形成される堆積物です。地下水に溶け込んだ鉱物成分が、洞窟内で析出・沈殿することで、様々な形状の鍾乳石が作られます。この鍾乳石は、学術的には「洞窟生成物」や「二次生成物」と同一視され、洞窟の装飾物とも呼ばれます。

特に、天井からつららのように垂れ下がる鍾乳石は「つらら石」として知られますが、学術的には他の洞窟生成物と区別して用いられます。なお、溶岩洞窟に見られる熔岩鍾乳は、溶岩が固まったものであり、厳密には鍾乳石とは異なります。一方、珪酸鍾乳は成長するため、鍾乳石に分類されます。

語源と英語表記



「鍾乳石」という語は、古代中国の文献『神農本草経』に由来します。英語ではstalactite(スタラクタイト)と呼ばれ、ギリシャ語の「滴る」を意味する言葉に由来します。一方、dripstone(ドリップストーン)は、stalactiteだけでなく、石筍や類似の生成物を含むより広い意味で使われます。

化学組成と生成過程



多くの鍾乳石は、石灰洞窟鍾乳洞)で見られ、主成分は炭酸カルシウム(方解石)です。しかし、霰石、石膏、水酸燐灰石、褐鉄鉱、珪酸、氷、粘土珪藻など、様々な鉱物から構成される鍾乳石もあります。金属鉱床に関連する洞窟では、針鉄鉱、孔雀石、胆礬、岩塩、メノウ、蛋白石、石英なども見られます。

鍾乳石の生成は、主に水の蒸発や水温低下による溶存成分の過飽和によって起こります。石灰洞窟では、雨水が土壌中の二酸化炭素を吸収して弱酸性となり、石灰岩を溶解します。この地下水が洞窟内に滲出すると、二酸化炭素が逸散し、炭酸カルシウムが過飽和となって析出、鍾乳石が形成されます。二酸化炭素の逸散は、水滴や薄膜状の水の場合により効果的に進行し、冬季の方が成長が進むという説もあります。沖縄県の玉泉洞の「黄金の盃」は水温上昇が生成要因と考えられています。

鍾乳石の分類:多様な形態と名称



鍾乳石は、その外観から様々な名称で呼ばれます。代表的なものとして、つらら石、石筍、石柱、畦石、石灰華段、流華石、石幕、鍾乳管、洞窟サンゴ、曲がり石、石花、洞窟真珠などがあります。

滴下する水で形成される鍾乳石



鍾乳管 (Soda-straw): 水滴が落下する際に、方解石結晶がリング状に沈着し、中空の管状に成長したもの。
つらら石 (Stalactite): 鍾乳管が同心円状に成長して、つららのような形になったもの。
石筍 (Stalagmite): 洞窟の床面からタケノコのように上に成長したもの。
石柱 (Column): つらら石と石筍が連結して柱状になったもの。
ドラペリー (Drapery): 水滴が壁面を流れ、カーテン状に成長したもの。

流水で形成される鍾乳石



流れ石 (Flowstone): 壁面や床面を流れる水で形成されるシート状の鍾乳石。
流礫棚 (Clastic canopy): 砂礫の上に流れ石が形成され、下部の砂礫が洗い流されたもの。

停滞した水域に形成される鍾乳石



畦石 (Rimstone): 水たまりから水が溢れる部分に方解石が沈着してできた堤防状のもの。
棚状石 (Shelfstone): 水たまり表面に形成される薄い鍾乳石。
洞窟真珠 (Cave pearl): 停滞した水域で形成される真珠状のもの。

浸出水で形成される鍾乳石



曲がり石 (Helictite): 浸み出した水が曲がりくねって成長したもの。
石楯 (Shield): 割れ目から浸み出す水により形成された平板状のもの。
中空球状鍾乳石 (Blister): 中空の球状の鍾乳石。
ボックスワーク (Boxwork): 底のない箱状の鍾乳石。
石花 (Anthodite): 針状結晶が放射状に集合して花のような形になったもの。

熱水で形成される鍾乳石



巨大結晶 (Giant crystal): 熱水によって坑道内に形成されるもの。

生物と関連する鍾乳石



珪藻鍾乳石 (Diatom speleothem): 珪藻類が群体に成長して形成されるもの。
ムーンミルク (Moonmilk): 微生物が関与して形成されるクリーム状のもの。
樹根管 (Rootsicle): 樹木の根の表面に形成されるもの。
樹根石筍 (Root stalagmite): 樹木の根が石筍のように伸びて形成されるもの。

その他



バーミキュレーション (Vermiculation): 水没した洞窟などにみられる軟らかい鍾乳石。
溶岩鍾乳 (Lava speleothem): 溶岩洞窟で形成されるもの。

沈積形態を示す名称



トラバーチン、ケイブオニックス、トゥファ、ムーンミルクなども、鍾乳石の沈積形態を示す用語として使われます。

世界記録とコンクリート構造物



ブラジルのグルータ・レイ・ド・マト洞窟にある石柱が、最長の鍾乳石として知られています。また、コンクリート構造物にも鍾乳石は形成され、その形成速度は天然のものよりもはるかに速いです。

まとめ



鍾乳石は、その生成過程や化学組成、形態など、多様な特徴を持つ魅力的な自然の造形物です。本稿では、鍾乳石に関する基本的な知識から、その多様な種類、そして驚きの規模までを紹介しました。今後も、研究の進展によって、鍾乳石に関する新たな知見が得られることが期待されます。

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