鎌原観音堂

鎌原観音堂：浅間山噴火の記憶を伝える場所

鎌原観音堂は、群馬県吾妻郡嬬恋村鎌原地区に位置する観音菩薩を祀るお堂です。この地は、1783年（天明3年）の浅間山大噴火によって発生した土石流により、壊滅的な被害を受けました。しかし、観音堂へと続く石段を駆け上がり難を逃れた人々がいたことから、この場所は「生死を分けた15段」として語り継がれています。

大噴火と土石流の悲劇

天明の大噴火は、鎌原村を襲い、村の人口570名のうち477名もの命を奪いました。土石流は、観音堂へと続く石段の35段目まで到達し、その高さは約6.5メートルにも及んだとされています。発掘調査の結果、埋没した石段の最下部からは、若い女性が年配の女性を背負うようにして亡くなっている姿で発見され、顔の復元から親子、あるいは姉妹のような近親者であると考えられています。このことから、噴火に気づき年長者を背負って避難しようとしたものの、土石流に飲み込まれてしまった悲劇が想像されます。

観音堂が人々の命を救う

土石流は、鎌原村だけでなく、吾妻川を堰き止め、決壊によって大洪水を引き起こし、利根川沿いの村々にも被害をもたらしました。この一連の災害で、1,490名もの人々が犠牲となりました。しかし、観音堂へ避難した93名は、土石流から逃れることができました。この出来事から、観音堂は人々の命を救う場所として、地域住民の信仰を集めるようになりました。

復興と信仰

大噴火後、鎌原村の人々は、江戸の東叡山寛永寺に救済を求めました。寛永寺の僧侶であった等順は、炊き出しや供養を行い、被災者の心のケアに尽力しました。その功績から、等順自筆の「南無阿弥陀仏」の名号碑が建立され、その足跡を伝えています。

また、観音堂は、火山災害から命を救われた場所として、厄除け信仰の対象となっています。地元では、鎌原観音堂奉仕会が毎日欠かさず先祖の供養を行っており、観音堂を訪れると、保存会員から当時の様子を聞くことができます。村が丸ごと飲み込まれた様子から「日本のポンペイ」とも呼ばれ、出土品や当時の絵図などは、観音堂に隣接する嬬恋郷土資料館に展示されています。

特筆すべき点として、多くの火山災害被災地では、生き残った住民が別の場所で新しい町を再建することが一般的ですが、鎌原村では、生き残った人々が同じ場所に戻って村を再建したという非常に珍しい例となっています。

現代に受け継がれる想い

2023年11月には、善光寺大勧進貫主が、240年ぶりに鎌原観音堂で法要を行い、等順の民衆救済の精神を受け継ぎ、善光寺と鎌原観音堂の縁を深めていきたいと語りました。本尊は十一面観音菩薩です。

交通アクセス

• - JR吾妻線万座・鹿沢口駅から西武観光バス「軽井沢駅」行きで約5分、「鎌原観音堂前」下車、徒歩2分。
• - 北陸新幹線・しなの鉄道軽井沢駅から、西武観光バス草津温泉行きまたは万座温泉行きで約65分、「鎌原観音堂前」下車、徒歩2分。

鎌原観音堂は、浅間山噴火の悲劇を伝えるとともに、人々の信仰と復興の歴史を象徴する場所として、現在も大切にされています。

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