等順

等順（とうじゅん）：民衆を救済した名僧

等順（1742年 - 1804年）は、江戸時代中期に活躍した僧侶で、大僧正の位にまで上り詰めました。東叡山寛永寺護国院の住職や、信州善光寺の別当、養源院の住職を歴任し、その生涯を民衆の救済と仏教の普及に捧げました。

生涯

信濃国（現在の長野県）出身の等順は、幼少の頃から学問に励み、全国から英才が集まる東叡山寛永寺護国院に入寺しました。そこで学僧としての才能を開花させ、護国院の住職にまで昇りつめます。その後、地元信濃国出身者としては唯一、信州善光寺の別当である大勧進の貫主に就任しました。

1783年、天明の大噴火により浅間山が噴火。上野国鎌原村（現在の群馬県嬬恋村）は甚大な被害を受けました。等順は被災地に赴き、30日間念仏を唱え続け、食糧の調達にも奔走しました。3000人もの被災者に金銭を施し、1490人の名前を記した経木塔婆を贈るなど、その救済活動は目覚ましいものでした。この活躍は、鎌原の人々によって「浅間山噴火大和讃」の中で「聖」として語り継がれ、鎌原観音堂には顕彰碑が建立されています。

浅間山噴火の被災者への供養として、融通念仏の儀式を簡略化した血脈譜を授与したところ、評判を呼びました。全国的な飢饉の時代において、人々の心を平穏にする融通念仏血脈譜を求めて、善光寺には全国から多くの参拝者が集まるようになりました。等順一代で授与した血脈譜は約180万枚にも及び、落語『お血脈』の由来にもなりました。

天明の大飢饉で苦しむ民衆に寄り添い、善光寺の蔵米を全て放出して民衆を飢餓から救いました。また、極楽への道筋を可視化するため、善光寺の整備にも尽力しました。1785年には、浅間山大噴火三回忌の年に善光寺本堂で最初の御開帳を執り行い、その後4年間にわたる全国開国開帳を実施し、善光寺信仰を全国に広めました。各地での開国開帳で被災者の融通念仏供養を行ったことで、善光寺信仰は一気に拡大し、多くの寺院が善光寺と結びつき、善光寺は民衆救済の寺として全国から信仰を集めるようになりました。

等順は、歴代の善光寺住職の中でも、本堂を再建した慶運と並び「善光寺中興の祖」と称えられ、民衆の間に「善光寺信仰」を確立した名僧として知られています。1797年には、京都御所に参内し、光格天皇に三帰戒と十念を授けました。善光寺を退任後は、京都養源院にて皇室に尽くしました。

略歴

1742年（寛保2年）：坂口観了の子として信濃国善光寺町に生まれる。
1753年（宝暦3年）：12歳で東叡山寛永寺護国院に入寺、周順に師事。
1775年（安永4年）：比叡山延暦寺竜禅院住持に拝命。
1778年（安永7年）：37歳で東叡山寛永寺護国院第13世住職を拝命。
1780年（安永9年）：護国院大本堂「釈迦堂」にて、不断念仏五万日を期す。
1782年（天明2年）：大納言・葉室頼熙卿の猶子となり清浄林院を賜う。信州善光寺別当大勧進第79世貫主に就任。
1783年（天明3年）：浅間山大噴火被災地である上野国鎌原観音堂（現群馬県嬬恋村）へ赴き、念仏供養を30日間施行。食糧等を物資調達、被災者一人に白米5合と銭50文を3000人に施す。善光寺に戻り、天明の大飢饉飢民救済のため、善光寺所蔵の米麦を全て蔵出しして民衆に施す。救済を受けた人々が等順の恩に感謝して、集まり掘ったのが大勧進表大門前にある放生池。
1784年（天明4年）2月：融通念仏血脈譜（お血脈）を新たに簡略化して作成、参拝者へ配布を始める。等順は生涯でお血脈を約180万枚授与。
1784年（天明4年）7月、本堂にて浅間山大噴火被災者の追善大法要を執行。被災者1490人の名が書かれた経木塔婆を送る。
1785年（天明5年）：大開帳法要、念仏堂において回向。本堂における御開帳の始まり。
1787年（天明7年）2月：江戸城に登り賀正。
1789年（寛政元年）：大勧進表門を建立（旧門は寛慶寺正門として移築）。
1794年(寛政6年)：国家安全と五重塔再建を志し、如来像を奉戴して4年間に及ぶ回国開帳を実施。全国各地をまわる。
1797年（寛政9年）11月7日：京都での回国開帳時に参内。光格天皇に三帰戒及び十念を授け奉る。万華堂、護摩堂内仏殿再建。
1798年（寛政10年）：善光寺に帰山し、本尊出開帳を実施。聖天堂、食堂等建立。
1800年（寛政12年）2月1日：江戸城にて将軍徳川家斉に拝謁するが、五重塔の再建は不許可となる。5月上洛し葉室家に参上、参内し光格天皇に拝謁。三千院より大原融通堂の再建協力の依頼を受け、協力を約束。
1801年（享和元年）：在職二十年にて善光寺別当を退任。公澄法親王より不軽行院を承る。諭示を賜い、公卿として養源院第11世住職に移ることを命じられ、京都にて皇室に尽くす。
1804年（文化元年）3月25日：遷化。比叡山、善光寺、護国院、養源院、寛慶寺に供養塔が建立された。

参考文献

岩下桜園『善光寺別当伝略』
宮島潤子『信濃の聖と木食行者』角川書店、1983年
萩原進『天明三年浅間山噴火史』鎌原観音堂奉仕会 1985年
萩原龍夫、真野俊和『仏教民俗学大系２　聖と民衆』名著出版、1986年
『善光寺さん』善光寺・大勧進教化部、1994年
奥村隆彦『融通念仏信仰とあの世』岩田書院、2002年
『朝日ビジュアルシリーズ 仏教新発見「善光寺」』朝日新聞社、2007年
『松本の念仏塔と念仏行事調査報告書』松本市教育委員会、2016年
牛山佳幸『善光寺の歴史と信仰』法藏館、2016年

外部リンク

善光寺本坊大勧進「大勧進の名僧・等順大僧正」
【信州 善光寺】 公式ウェブサイト
鎌原観音堂
関善光寺　宗休寺
まぼろしの善光寺五十塔
善光寺御開帳に　等順を思う　2015年03月20日
ー浅間山の大噴火と等順ー　2015年04月11日
群馬・嬬恋　供養続け２３０年、住民の絆　2015.10.31
松本の念仏塔と念仏行事調査報告書（松本市教育委員会）
* 「善光寺御開帳は自然災害から始まった　民衆救済に身をささげた学僧・等順」読売新聞オンライン「今につながる日本史」2022年3月30日

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