鐘 (ラフマニノフ)

ラフマニノフの合唱交響曲『鐘』作品35

セルゲイ・ラフマニノフが1913年に完成させた合唱交響曲『鐘』（ロシア語: Колокола、カラコーラ）作品35は、エドガー・アラン・ポーの詩をコンスタンチン・バリモントがロシア語訳したものをテキストに用いた壮大な作品です。この作品は、ラフマニノフがローマ滞在中に作曲し、指揮者ウィレム・メンゲルベルクとアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団に献呈されました。

作曲の背景

この作品の着想は、匿名の女性ファンから送られた手紙に同封されていたポーの詩のロシア語訳がきっかけでした。この手紙の送り主はモスクワ音楽院の学生マリヤ・ダニロヴァであり、彼女はこの詩がラフマニノフの音楽に最適であると確信していました。ラフマニノフは、少年時代から教会の鐘の音に魅了されており、この詩が鐘の音を通して人生の四季を描いている点に共感を覚え、交響曲として作曲することを決意しました。彼はローマの静かな家で、1913年1月から4月にかけてこの作品を完成させました。この家は、かつてチャイコフスキーが創作に励んだ場所でもありました。

ラフマニノフは当初、この作品を「交響曲第3番」と位置づけており、それまでの2作の交響曲との関連性を示唆していました。彼はこの作品を非常に気に入っていたとされ、同時期にはピアノソナタ第2番も作曲しています。献呈先のメンゲルベルクとコンセルトヘボウ管弦楽団は、前年にラフマニノフとイギリスで共演し成功を収めたものの、この作品を演奏することはありませんでした。

初演と評価

初演は1913年12月13日にペテルブルク貴族会館で、作曲者自身の指揮、マリインスキー劇場管弦楽団・合唱団によって行われました。翌1914年にはモスクワでも初演され、いずれも熱狂的な支持を得ましたが、進歩的な芸術家からは、象徴主義的な詩が「俗悪」な音楽で表現されていると批判されることもありました。

編成

この作品は、ソプラノ、テノール、バリトンの独唱、混声合唱、そして大規模な管弦楽によって演奏されます。管弦楽には、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットなどの木管楽器、ホルン、トランペット、トロンボーン、チューバなどの金管楽器、ティンパニ、鐘、グロッケンシュピール、トライアングル、タンバリン、スネアドラム、シンバル、バスドラム、タムタムなどの打楽器、ピアノ、チェレスタ、ハープ、オルガン、そして弦五部が用いられます。

構成

この作品は4つの楽章から構成されており、演奏時間は約37分です。

第1楽章 アレグロ、マ・ノン・タント: 銀の鐘が若さの輝きを歌い、快活なテノール独唱が鈴の音に乗って疾走するそりの姿を描き出します。
第2楽章 レント: 愛と結婚の幸福がソプラノによって甘く美しく歌われ、聖なる婚礼に金の鐘が鳴り響きます。
第3楽章 ブレスト: 激動の騒乱を告げる真鍮の警鐘が鳴り響き、混声合唱が人々の恐怖と憤激を代弁するように力強く咆哮します。
第4楽章 レント・ルグブレ: 鉄の鐘が弔いの悲しみを告げ、バリトンの荘重な響きが、永遠の眠りがもたらす心の平安を歌い上げます。

ラフマニノフが繰り返し用いたグレゴリオ聖歌の「怒りの日」（ディエス・イレ）の旋律が、この作品においても効果的に使用されています。

関連情報

この作品は、ラフマニノフの音楽的才能と深遠な精神性が融合した傑作として知られています。彼の他の作品と同様に、ロシアの伝統と深い情感が込められており、聴く者の心に深く響きます。

[参考資料]
ニコライ・バジャーノフ著、小林久枝訳『伝記 ラフマニノフ』第3版、音楽之友社、2003年 ISBN 978-4276226210
ウラディーミル・アシュケナージのアルバム『ラフマニノフ: 3つのロシアの歌/カンタータ「春」/合唱交響曲「鐘」/6つの合唱曲』（エクストン、OVCL-00087）のライナーノート、林田直樹による解説
レナード・スラットキンのアルバム『RACHMANINOFF ORCHESTRAL MUSIC』 (VOX, CD3X 3002) のライナーノート、Richard Freedによる解説

外部リンク

『鐘』作品35の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)
The Bells, Op.35 - 『Musopen』より
The bells Op.35 - 『Free-scores.com』より
* The Bells, choral symphony for soprano, tenor, baritone, chorus & orchestra, Op.35 - 『Allmusic』より 《ディスコグラフィー一覧有り》

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