長吏 (賎民)

長吏（ちょうり）についての考察

長吏とは、日本の歴史において賎民の一群を指し、中世から江戸時代にかけてその役割や意味合いが変化してきました。特に、中世においては穢多（かわた）や非人の頭目を指していましたが、江戸時代にはそれらの身分に基づく人々やそのリーダーを包含する広範な用語となりました。具体的な役割や立場は地域によって異なり、各地の社会や経済の状況を反映していました。

中世における長吏の構造

中世の長吏に関する記録は、奈良坂・清水坂といった宿場における非人の争論から推察できます。この時代、興福寺や清水寺の支配下では、宿ごとに一人の長吏が配置されていました。これにより、長吏の下にはさまざまな階層が形成されていました。各宿の長吏は、下座や法師などの役職を持ち、特定の階層内での秩序が確立されていました。このように、非人の宿は同業者の団体としての面影があり、組織化された形で管理されていたことがうかがえます。

近世の長吏の役割

近世における長吏については、特に『日葡辞書』に興味深い記述があります。ここでは長吏を「死んだ獣の皮を剥ぐ人」や「癩病人を監督する者」として描写し、穢多との関連性も述べています。この記述から、長吏の実務や職能に関する理解が得られます。地域ごとの長吏の役割は異なり、彼らの仕事が多岐にわたることも示されています。

地域ごとの長吏の特性

江戸時代における長吏の実態は、地域によって大きく異なりました。例えば、江戸では弾左衛門の支配下にある関東8か国において、長吏は主に非人としての役割を担い、監督の下での仕事に従事していました。また、酒田や鶴岡では、刑事処理や葬儀の取り扱いなど、多様な業務をこなしていましたが、長吏と非人の間に明確な支配関係は存在しなかったことが特徴です。

さらに信濃の松本や上田のような地域では、長吏は千番所や警察の下での仕事を命じられ、地域の清掃や秩序維持に寄与していました。この場合も、控制体制として組織された階級制度が採用されており、長吏が非人を直接支配することはほとんどありませんでした。

非人および長吏が集住する大都市

一方、都市部には非人の大規模な居住地があり、彼らの長吏はその仲間や村ごとの非人を統率しました。たとえば、大坂や堺、奈良などでは、長吏が周囲の秩序を維持するために町奉行との連携の下で働いていました。このように、長吏は単なる役職にとどまらず、地域社会における重要な役割を果たしていたのです。

結論

総じて、長吏という役職は日本の歴史における賎民や非人のひとつの象徴であり、彼らの社会的地位や役割は時代や地域によって変遷してきました。その制度や構造の詳細を理解することで、現在の社会における階級の形成や歴史的背景を考える手助けとなります。中世から近世にかけての長吏の存在は、単なる賎民の代表であるだけではなく、社会の一端を担う重要な組織であったと言えるでしょう。

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