長岡謙吉

長岡謙吉：海援隊を支えた文才と知略

長岡謙吉は、天保5年（1834年）に土佐藩（現在の高知県）で生まれ、明治5年（1872年）に39歳という若さで亡くなった、幕末の激動期に活躍した人物です。彼は、医師の家に生まれましたが、その才能は医学の分野にとどまらず、文才と知略をもって海援隊で重要な役割を担いました。幼名は今井純正、別名として敦美、恂を名乗り、字は子行、号は懐山でした。

医師としての出発と蘭学への傾倒

長岡謙吉は、高知城下の医師・今井孝順の長男として生まれました。母は坂本龍馬の継母・伊予の親族にあたります。幼少期には、河田小龍の下で蘭学を学び、西洋の学問に触れました。その後、大阪で儒医に師事し、安政6年（1859年）には家業を継ぐために長崎で二宮敬作に医学を学びました。さらに、二宮の師であるシーボルトが再来日した際には、英語や国際法を学ぶ機会も得ました。しかし、この長崎での勉学中にキリスト教への傾倒を疑われ、藩から帰国命令を受け、蟄居や城下禁足といった処罰を受けました。その後、罪を許された長岡は、高知城下から東の鹿児地区で医者として活動し、名医として評判を得ていました。

海援隊での活躍

医師として名声を得ていた長岡でしたが、やがて脱藩し、長崎で坂本龍馬率いる海援隊に参加しました。龍馬は長岡の文才を高く評価し、海援隊の通信文書の作成や、いろは丸事件の顛末書の起草など、事務処理のほとんどを任せたと言われています。また、慶応3年（1867年）には、夕顔丸で坂本龍馬や後藤象二郎らと同船し、大政奉還後の龍馬の構想をまとめた「船中八策」を成文化したとされています。さらに、長崎におけるキリシタン問題を論じた『閑愁録』を出版するなど、その文才を遺憾なく発揮しました。龍馬が暗殺された後には、海援隊の二代目隊長に選ばれ、その手腕を期待されました。

戊辰戦争と明治維新後

戊辰戦争では、海援隊を率いて瀬戸内海の小豆島や塩飽諸島などを占領し、新政府軍の勝利に貢献しました。明治維新後には、三河県知事、大蔵省、工部省などに勤務しましたが、明治5年（1872年）に東京で若くして亡くなりました。享年39歳でした。

その他の事柄

長岡謙吉は、「船中八策」と関連する『藩論』の著者でもあります。大正8年（1919年）には、その功績が認められ、正五位を追贈されました。

逸話としては、長崎遊学中に岩崎弥太郎らに濡れ衣を着せられ、拷問を受けたことが記録されています。また、大の犬嫌いで、坂本龍馬の妻である楢崎龍にいたずらをされたというエピソードも残っています。

長岡謙吉は、その短い生涯の中で、医師、蘭学者、海援隊士、そして官僚として、激動の幕末・明治維新期を駆け抜けました。彼の残した足跡は、日本の歴史において重要な意味を持っています。

関連作品

長岡謙吉は、以下の作品で描かれています。

テレビドラマ
『竜馬がゆく』（1968年、演：夏八木勲）
『勝海舟』（1974年、演：阿部希郎）
『青天を衝け』（2021年、演：松澤匠）
ビデオゲーム
『維新の嵐』（1988年）

これらの作品を通して、長岡謙吉の活躍をより身近に感じることができます。

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