二宮敬作

二宮敬作：蘭学と医学に捧げた生涯

二宮敬作（にのみや けいさく）は、文化元年（1804年）に伊予国宇和郡磯崎浦（現在の愛媛県八幡浜市保内町磯崎）で生まれました。江戸時代後期に蘭学者、医学者として活躍し、日本の医学の発展に貢献しました。特に、シーボルトの娘である楠本イネを養育し、彼女を日本初の女医（産科医）へと導いたことで広く知られています。

長崎留学とシーボルトとの出会い

文政2年（1819年）、二宮敬作は医師を目指して長崎へ留学しました。吉雄権之助や美馬順三に師事し、蘭語や蘭方医学を学びました。文政6年（1823年）には、ドイツ人医師フィリップ・フランツ・フォン・シーボルトの門下生となり、鳴滝塾で蘭学を深めました。

文政9年（1826年）、シーボルトが江戸へ参府する際に同行し、測量器を用いて富士山の高度を日本で初めて測定しました。この測定結果は、シーボルトが母国の恩師に報告しており、その数値は4982メートルであったと記録されています。また、シーボルトが著した『日本植物誌』には、敬作が九州の高山で採取した植物が「ケイサキイアワモチ」と命名されたことが記されており、植物学にも貢献しました。

シーボルト事件とイネの養育

文政11年（1828年）、シーボルト事件が発生し、シーボルトは日本を離れることになりました。その際、二宮敬作は弟子の高良斉とともに漁師に変装して小舟でシーボルトを見送り、彼の娘イネの養育を託されました。この事件に連座した敬作は、半年間の入獄の末、江戸への立ち入りを禁止され、長崎からも追放されて故郷の磯崎に戻ることとなりました。

天保元年（1833年）には、宇和郡卯之町で町医者として開業し、イネを呼び寄せて養育しました。安政5年（1858年）には再び長崎へ移り開業医となり、故郷に帰ることはありませんでした。

シーボルトとの再会と晩年

安政6年（1859年）、長崎に再来日したシーボルトと再会を果たし、産科医として活躍するイネの姿を見て、敬作の義侠心に深く感動したと言われています。シーボルトが江戸へ向かう際に同行する予定でしたが、病に倒れ、その願いは叶いませんでした。文久2年（1862年）、長崎で59歳で亡くなり、墓は長崎の皓台寺にあります。大正13年（1924年）には、その功績を称えられ正五位が追贈されました。

人物像と評価

二宮敬作は、情に厚く、貧しい人々にも献身的な活動を行ったことから、地元の人々から「医聖」と慕われました。宇和島藩主の伊達宗城にも重用され、高野長英や村田蔵六（後の大村益次郎）とも親交がありました。しかし、酒癖が悪く、酔って家人を追い回すこともあったようです。そのためか晩年には脳溢血で倒れ、右腕に障害が残りましたが、手術は成功したと伝えられています。

二宮敬作は、日本人として唯一『ライプツィヒ版ドイツ百科事典』に「日本の俊才、二宮敬作伝」として紹介され、その名が記録されています。また、彼の生誕地である八幡浜市保内町磯崎には「二宮敬作記念公園」が設けられています。甥で門人であった三瀬周三は、イネの娘・楠本高子の婿となりました。NHK大河ドラマ『花神』では、大村益次郎と楠本イネを結びつける重要な役として描かれ、大滝秀治が演じました。

二宮敬作は、蘭学と医学の発展に大きく貢献し、多くの人々に影響を与えた人物として、その名が後世に語り継がれています。

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