長崎貿易銭

長崎貿易銭とは

長崎貿易銭は、江戸時代初期の万治2年（1659年）に、長崎での貿易取引専用に鋳造された一連の銭貨です。これらの銭貨は、宋銭の銘を用いていますが、実際には日本の長崎で独自に鋳造されたものです。

背景

寛永13年（1636年）以降、寛永通寳が広く流通するようになると、幕府はそれまで使われていた明銭や宋銭などの古銭の国内での使用を禁止する方針を示しました。これにより、国内で余剰となった古銭がオランダ船などを通じて大量に輸出されるようになりました。

また、銭貨の全国統一を目指す幕府は、寛永通寳の輸出も禁止しようとしましたが、実際にはかなりの量が海外に流出したようです。寛文8年（1668年）には、寛永通寳が輸出禁止品目として明確に公示されました。さらに、寛文10年（1670年）には、両替商が古銭を混ぜて寛永通寳を売買することや、一般流通で古銭を混ぜて使用することが禁じられました。しかし、銭貨の完全統一は元禄時代までかかりました。

長崎貿易銭の誕生

一方、長崎ではオランダや中国との貿易が盛んであり、銭貨の需要が高まっていました。古銭だけでは需要を賄いきれなかったため、長崎奉行は貿易専用の銭貨の鋳造を幕府に申請し、寛永通寳の銘を用いないことを条件に許可を得ました。こうして、万治2年（1659年）7月14日から、長崎の中島の銭座で宋銭の銘を用いた銅銭の鋳造が開始されました。

当時、中国国内では銭貨が不足しており、オランダ商人は銭貨を中国に輸出することで利益を得ようとしていました。長崎貿易銭は、ベトナムなどにも輸出され、ベトナムでは長崎貿易銭と寛永通寳の出土記録が残っています。ベトナムの通貨単位「ドン」は、日本の銅銭に由来するとも言われています。当時、中国の産銅量が減少していたため、良質な日本の銅銭の流入は歓迎されました。

『貨幣通考』によれば、長崎貿易銭の鋳造は貞享2年（1685年）に停止されました。

長崎貿易銭の特徴

長崎で鋳造された銭貨の銭籍は確定していませんが、銭文の書体、材質、製作技術が宋銭とは異なり、寛永通寳との共通点もみられます。長崎貿易銭とされるものには、以下の種類があります。

元豊通寳（げんぽうつうほう）隷書体
元豊通寳 行書体および篆書体
天聖元寳（てんせいげんぽう）楷書体
祥符元寳（しょうふげんぽう）楷書体
嘉祐通寳（かゆうつうほう）楷書体
熈寧元寳（きねいげんぽう）楷書体および篆書体
紹聖元寳（しょうせいげんぽう）篆書体
治平元寳（じへいげんぽう）篆書体

これらのうち、元豊通寳が最も多く現存しており、熈寧元寳の楷書体と治平元寳は非常に希少です。

これらの銭貨は、宋銭を模倣したものではなく、独自に母銭を製作して鋳造されたものです。直径は約24ミリメートル（8分）、質量は約3.0～3.7グラム（0.8～1匁）程度で、古寛永通寳と同程度の直径を持ちますが、厚みはやや薄く、文字の彫りも浅いです。銅質は一般の寛永通寳や宋銭と比較して赤みを帯びています。銭貨に含まれる鉛同位体比の分析結果から、使用された鉛の一部は対馬鉱山産であることが示唆されています。

まとめ

長崎貿易銭は、江戸時代初期の国際貿易における日本の経済活動を象徴する銭貨です。これらの銭貨は、当時の複雑な経済状況と、貿易に対する日本の姿勢を今に伝える貴重な歴史遺産と言えるでしょう。

参考文献

『貨幣通考』

関連項目

日本の貨幣史
日本の貿易史
貿易銀

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