銭座

銭座（ぜにざ）とは

銭座とは、江戸時代に寛永通寳をはじめとする銭貨を鋳造した組織、あるいは機関のことです。飛鳥時代から平安時代にかけて皇朝十二銭を鋳造した鋳銭司（じゅせんし、ちゅうせんし）がその前身と言えます。

銭座の概要

江戸時代前期には、寛永通寳などの銭貨鋳造は民間の商人による請負事業でした。幕府は必要に応じて銭貨鋳造希望者を公募し、能力のある者に期限付きで鋳造を命じました。鋳造量が目標に達すると、銭座は解散されました。請負人には呉服屋、糸割符仲間、銀座役人などの有力な町人が名を連ね、彼らは鋳造高の5～20％（原則10％程度）を運上として幕府に納めました。しかし、全国60箇所以上に及ぶ銭座で鋳造された寛永通寳は、品質や外観が統一されておらず、多様なものが存在しました。

明和2年（1765年）以降は、金座と銀座が鋳銭事業を兼任するようになり、銭座は定座として確立、幕府の支配が強化され、銭貨の均質化が図られました。また、元禄年間以降の銅産出量の減少と輸出用銅の不足も、幕府の管理体制強化の一因となりました。

銭座の歴史

寛永通寳の登場

寛永3年（1626年）、水戸の豪商である佐藤新助が銭貨不足を理由に幕府と水戸藩に銅銭鋳造を願い出て、許可されたのが寛永通寳の始まりです。当初は私鋳銭の域を出ませんでしたが、幕府が鋳造を命じたとされる慶長通寳や元和通寳も同列のものと考えられています。

幕府による本格的な鋳造

寛永13年（1636年）には、足尾[[銅山]]などからの銅産出量増加を受け、幕府が本格的に寛永通寳の鋳造を管理するようになり、江戸浅草橋場、芝網縄手、近江坂本の3箇所に銭座が設置されました。翌年には水戸、仙台など8箇所が追加され、さらに駿河井之宮にも設けられましたが、銭相場の下落と品質のばらつきから、寛永17年（1640年）に全銭座での鋳造が一時停止されました。銭座の設置には各地の私鋳銭職人が召し出されましたが、鋳造停止によって職を失い、密造に手を染める者も現れたため、寛永20年（1643年）には全国的に私鋳銭製造が禁止されました。

銭座の再開と変遷

その後、経済発展に伴う銭貨不足から、明暦2年（1656年）に江戸と駿河に銭座が再開されました。また、京都にも銭座が設けられたとされます。この時期までに鋳造された寛永通寳は「古寛永」と呼ばれ、以前の輸入銭と比較して良質でした。万治2年（1659年）には、寛永通寳の輸出が禁止され、長崎中島銭座では貿易専用の銅銭が鋳造されました。

寛文8年（1668年）から天和3年（1683年）にかけては、呉服屋の後藤縫殿助らが鋳銭を請け負い、江戸亀戸に大規模な銭座が設けられました。この時期の寛永通寳は「文銭」と呼ばれ、均質で良質なものでした。亀戸の銭座は、後の元禄から宝永年間、正徳年間、元文年間にも稼働しました。

品位低下と銭相場の高騰

元禄から宝永にかけての金銀貨改鋳以降、金銀貨の品位が低下し、通貨量が増大したことで、銭相場が高騰しました。また、別子[[銅山]]の産出量増加を受け、元禄13年（1700年）から宝永5年（1708年）には、京都で薄肉小型の寛永通寳や寳永通寳が鋳造されました。これらの銭は荻原重秀の建策により小型化されたため、「荻原銭」と呼ばれます。

銭座の拡大と品質管理

正徳4年以降には、江戸亀戸、佐渡相川、大坂難波など各地に銭座が設置され、寛永通寳が鋳造されました。幕府は銭貨の品質管理と銅の統制を強化し、銭の背面に鋳造地を示す文字を鋳出させたり、面文に特徴を持たせることで鋳銭地を明確化しました。

定座化と鉄銭の導入

明和2年以降、銭座は金座と銀座の監督下に置かれ、常設の定座となりました。地方の銭座も金座の監督下に置かれました。この時期から寛永通寳は鉄銭が中心となり、金座直轄の銭座で大量の鉄銭が鋳造されました。明和4年（1767年）からは長崎で貿易専用の銅銭が鋳造されましたが、品質は低いものでした。

真鍮四文銭と天保通寳

明和5年（1768年）からは、銀座の監督下で寛永通寳真鍮四文銭が鋳造され、文政4年（1821年）からは浅草橋場の銭座で四文銭の鋳造が行われました。また、天保6年（1835年）からは金座と浅草橋場で天保通寳の鋳造が始まり、慶応元年（1865年）からは盛岡、仙台など各地の銭座で精鉄四文銭が鋳造されました。

幕末の銭貨

幕末の文久3年（1863年）には、江戸深川東大工町の銭座で文久永寳が鋳造され、真崎と小菅の銭座でも鋳造が開始されました。

銭貨の鋳造法

大吹所（おおぶきしょ）

最初に原料となる金属（銅、錫、鉛、アンチモンまたはビスマスなど）を規定量秤り取り、坩堝で溶解して合金を作ります。1度に14貫を「一吹き」とし、出来上がった地金は破砕され、500匁ごとに小分けされて銭吹所に送られます。

鎔土（ほど）

砂地に母銭を押し付けて鋳型を作り、湯道をつけます。鋳型は表裏2枚作られ、合わせて縛り、漏斗から溶解した金属を流し込みます。母銭は手彫りの彫母銭を原型とし、錫母銭、銅母銭を経て、通用銭が鋳造されました。

研場（とぎば）

冷却後、鋳型から取り出した銭は、湯道棒の先に多数繋がった「枝銭」の状態です。銭を取り外して角棒に通し、まとめて縁を鑢で研ぎバリを取り除きます。さらに、中央の穴を仕上げ、豆の汁で煮て付着した砂を取り除き、縄で磨いて光沢を出し、仕上げます。出来上がった銭貨は検査場に送られ、合格したものが銭緡にまとめられ、金蔵に納められました。

銭貨は当時の銭相場に応じて両替商に売却されることで発行されました。

もう一度検索