長征8号

中国の衛星打上ロケット：長征8号

中国航天工業公司（CALT）によって開発された長征8号（Long March 8, CZ-8, LM-8）は、衛星打上げを目的とした液体燃料式のキャリアロケットです。既存のロケット技術を効率的に活用することで、開発コストと期間の削減を図り、衛星コンステレーション構築などを支える中軌道へのアクセスを容易にすることを目指して開発されました。

標準型（CZ-8）の仕様と特徴

長征8号の標準型は、先行する長征7号ロケットの設計思想やコンポーネントを多数受け継いでいます。

基本構造:
第1段: 「K3コアモジュール」と呼ばれる中心モジュールで、長征7号の第1段と共通の設計です。推力は比較的高く設定されています。
補助ブースター: 第1段の両脇に装着される2基の「K2ブースター」も、長征7号で使用されているものと同一のタイプです。これにより、離昇時の総推力を増強します。
第2段: 2基のYF-75エンジンを搭載しています。このエンジンは、長征3号A、3B、3C、長征7号、そして長征7号Aの第3段で使用されている実績のある液体水素/液体酸素エンジンです。
能力: 高度700kmの太陽同期軌道（SSO）に最大5,000kgのペイロードを投入することが可能です。これは、多くの地球観測衛星や科学衛星が利用する軌道であり、この能力を持つことで多様なミッションに対応できます。
初打上: 2020年12月22日、海南省にある文昌衛星発射場から初めて打ち上げられました。この成功により、長征8号は中国の打上ロケットラインナップに新たな一員として加わりました。

バリエーション

長征8号には、基本構成から派生した複数のバージョンが存在します。

「コア・オンリー」バージョン: 標準型の構成から2基の補助ブースターを除外したシンプルな構成です。これにより、より軽量なペイロードや、より低い軌道への投入に適応できます。このバージョンは、2022年2月に初めて打ち上げられました。
長征8号A（CZ-8A）: 長征8号の能力向上型として開発されました。
第2段の改良: 標準型より大型化された直径3.35メートルの液体水素/液体酸素タンクを持つ第2段を採用しています。
新型エンジン: 2基のYF-75D（またはYF-75H）エンジンを搭載。これはYF-75の改良型で、ターボポンプの回転速度を向上させるなどの設計変更により、1基あたりの推力が10トンに強化されています。
ペイロードフェアリング: 直径5.2メートルの大型フェアリングの使用も可能となり、より大きなサイズの衛星や複数の小型衛星を搭載できるようになりました。
能力: 高度700kmの太陽同期軌道に対し、最大7トンのペイロードを投入する能力を持ちます。これは標準型から大幅な能力向上となります。
初打上: 長征8号Aは、2025年2月11日に最初の飛行を行いました。

将来計画：再使用技術の導入

長征8号シリーズの将来的な構想として、ロケットの部分再使用技術の導入が検討されています。計画されている派生バージョンの一つでは、第1段とその補助ブースターを一体化したモジュールとして、ミッション完了後に大気圏に再突入させ、垂直着陸（VTOL）方式で回収することを目指しています。これが実現すれば、打上コストの大幅な削減につながる可能性があります。

使用される発射場

長征8号および長征8号Aの打上は、主に海南島に位置する以下の発射場から行われます。

文昌衛星発射場: 標準型長征8号の初打上が行われた主要な発射場です。
海南商業航天発射場（HICAL）: 将来的に、特に商業ミッションでの利用が見込まれる発射場です。

長征8号シリーズは、既存技術の活用、柔軟な構成、そして将来の再使用技術への対応といった特徴を持ち、中国の宇宙開発、特に商業宇宙活動の拡大を支える重要なロケットとして位置づけられています。

関連情報

長征 (ロケット)：長征シリーズ全体の概観
* 長征7号：長征8号のベースとなったロケット

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