中国の宇宙開発

中国の宇宙開発は、中華人民共和国の宇宙開発計画全般を指します。現在、中国国家航天局（CNSA）が中心となり、宇宙計画を推進しています。その歴史は、1950年代後半の弾道ミサイルや原子爆弾の開発に遡ることができ、その後、独自の技術力を確立し、有人宇宙飛行、月探査、火星探査へとその領域を拡大しています。

歴史

明の時代

伝説によると、明の時代には、万戸（ワン・フー）という官僚が、47本のロケットを搭載した椅子に座り、宇宙へ飛び立とうとしたものの、ロケットの爆発により命を落としたとされています。これは、宇宙への挑戦の試みとして語り継がれています。

中ソ友好同盟時代

朝鮮戦争でのアメリカの核兵器使用の脅威を受け、毛沢東は核抑止力の必要性を痛感し、1955年1月15日に中国共産党中央委員会で核兵器とミサイルの独自開発を宣言しました。これが中国の宇宙開発の基礎となります。

1956年には、アメリカから帰国した科学者、銭学森を所長として国防部第5研究所が設立され、中国初の弾道ミサイルの開発に着手しました。1957年にはソ連が世界初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げ、これに刺激された毛沢東は、1959年までに人工衛星を打ち上げる「581計画」を承認し、宇宙開発を加速させました。ソ連の技術協力も得ながら、中国は初の観測ロケットやミサイルの開発を進めました。

しかし、中ソ関係が悪化すると、ソ連からの技術援助は打ち切られ、中国は自力で宇宙開発を進めることになります。

中ソ対立後

ソ連の技術援助が途絶えた後も、中国は独自の技術力でロケットやミサイルの開発を続け、1960年代には国産のロケットやミサイルの打ち上げに成功しました。1964年には初の核実験を成功させ、核兵器搭載ミサイルの開発も進めました。

1967年、毛沢東と周恩来は、アメリカとソ連の宇宙開発競争に対抗し、中国独自の有人宇宙計画を開始することを決定し、1968年には初の有人宇宙船「曙光1号」が計画されました。しかし、文化大革命の影響により、この計画は中止となりました。

1970年には、中国初の人工衛星「東方紅1号」の打ち上げに成功し、宇宙開発で大きな一歩を踏み出しました。その後も、回収型衛星やロケットの開発を進め、宇宙開発の基礎を築きました。

毛沢東の死後

毛沢東の死後、鄧小平が指導者となり、宇宙開発は再び活性化します。長征ロケットシリーズの開発が進められ、商業衛星の打ち上げも開始されました。1986年には新たな有人宇宙計画「863計画」が提案され、後の「921計画」へと繋がっていきます。

冷戦終結の後

冷戦終結後、中国は宇宙開発をさらに加速させ、1999年には神舟1号の打ち上げに成功しました。2003年には、楊利偉を乗せた神舟5号が打ち上げられ、中国は世界で3番目に独自の有人宇宙飛行を成功させた国となりました。

その後も、宇宙ステーションの建設、月探査、火星探査など、宇宙開発は目覚ましい進歩を遂げました。

組織

中国の宇宙開発は、当初は中国人民解放軍が主導していましたが、1990年代以降は中国国家航天局（CNSA）が中心となり、中国運載火箭技術研究院（CALT）がロケットを、中国航天工業公司（CASC）が人工衛星を製造しています。これらの組織は、国防部第5研究院から発展した国営企業です。

大学・研究所

中国の宇宙開発は、以下の大学や研究所とも密接な関わりがあります。

清華大学：航天航空学院
浙江大学：航空航天学院
上海交通大学：空天科学技術研究院
ハルビン工業大学：航天学院
北京航空航天大学：自動化科学と電気工程学院

宇宙都市

中国には、宇宙開発に関連する以下の宇宙都市があります。

東風航天城
北京航天城
文昌航天城
上海航天城
煙台航天城
貴州航天高新技術産業園

衛星打ち上げ施設

中国には、以下の衛星打ち上げ施設があります。

酒泉衛星発射センター（JSLC）
西昌衛星発射センター（XSLC）
太原衛星発射センター（TSLC）
文昌衛星発射センター（WSLC）

ロケット打ち上げ場

中国には、過去に以下のロケット打ち上げ場がありました。

南匯区（老港鎮東進村）
603基地

監視・コントロールセンター

中国の宇宙活動は、以下の監視・コントロールセンターによって支えられています。

北京航天飛行制御センター（BACC）
西安衛星観測制御センター（XSCC）

また、6隻の遠望型衛星追跡艦、データ中継衛星天鏈1号、深宇宙追跡ネットワーク、国内の衛星追跡施設、海外の衛星追跡施設によって、宇宙での活動が支えられています。

有人宇宙飛行計画

中国の有人宇宙飛行計画は、以下の三段階で構成されています。

714計画

1967年、毛沢東と周恩来は、アメリカとソ連に対抗し、中国独自の有人宇宙計画を開始することを決定しました。714計画は、1973年までに2人の宇宙飛行士を「曙光1号」で宇宙へ送ることを目標としていました。しかし、この計画は文化大革命の影響で中止となりました。

863計画

1986年には、新たな有人宇宙計画「863計画」が提案されました。これは、宇宙ステーションと有人宇宙機から構成される計画で、後の「921計画」へと発展しました。

921計画

1992年に承認された「921計画」は、有人宇宙飛行を実現するための重要な計画です。この計画は、宇宙カプセル、宇宙実験室、大型宇宙ステーションの3段階で構成されています。

宇宙カプセル: 神舟宇宙船による有人宇宙飛行
宇宙実験室: 天宮1号、天宮2号による宇宙実験
大型宇宙ステーション: 天和コアモジュールを中心とした大型宇宙ステーションの建設

実績

中国は、神舟シリーズの打ち上げにより、有人宇宙飛行の実績を重ねてきました。また、宇宙遊泳、宇宙ドッキング、宇宙実験室の運用など、宇宙開発の分野で数々の成功を収めています。

探査計画

中国は、月探査、火星探査などの深宇宙探査にも積極的に取り組んでいます。

月探査

中国の月探査計画「嫦娥計画」は、周回、軟着陸、サンプルリターンの3段階で構成されています。2013年には嫦娥3号が月面軟着陸に成功し、2020年には嫦娥5号が月面サンプルリターンに成功しました。また、嫦娥4号は、月の裏側への着陸に成功し、世界を驚かせました。

火星探査

中国は、2020年に火星探査機「天問1号」を打ち上げ、2021年には着陸に成功しました。探査車「祝融」により、火星の地表探査を行っています。また、将来的な有人火星探査も視野に入れています。

目標

中国の宇宙開発の目標は、以下の通りです。

長期的地球観測システムの確立
独自の衛星通信ネットワークの配置
独自の衛星測位システムの配置
商業衛星打ち上げ事業の提供
リモートセンシング技術の確立
微小重力環境、宇宙物質、生命科学、天文学といった宇宙科学の研究
月探査計画
有人宇宙ステーションの設置
月への有人宇宙計画
有人月面基地の設置

現在進行中・計画中の一覧

中国では、多くの人工衛星計画や宇宙探査計画が進行中です。

人工衛星計画

双星計画
東方紅衛星
天鏈2号
北斗衛星測位システム
天体物理学研究
夸父計画
環境減災衛星 (HJ)
遥感衛星 (YW)
高分 (GF)
資源 (ZY)
実践 (SJ)
中星 (Chinasat)
烽火 (FH)
海洋 (HY)
風雲 (FY)
返回式衛星 (FSW)
試験衛星　Shiyan Weixing (SW) シリーズ

打ち上げ機

開拓者シリーズ
快舟
長征2号E(A)
長征2号F/G
長征3号B(A)
長征4号
長征5号
長征6号
長征7号
長征11号
長征8号
長征9号
921-3計画
月ロケット

宇宙探査

921-1計画
921-2計画
貨運飛船
嫦娥計画
天問1号

ロードマップ

中国は、2050年までの宇宙開発のロードマップを発表しており、宇宙科学ミッションの実施、木星や天王星の探査、太陽系境界探査、国際月研究ステーションの建設、金星大気のサンプルリターンミッションなど、野心的な計画を掲げています。また、宇宙の起源の進化、空間と時間の本質、太陽系と生命の起源、有人深宇宙探査などの基礎研究でのブレークスルーを目指しています。

参考文献

世界の宇宙技術力比較と中国の宇宙開発の現状について（日本語）（2010年2月 JAXA）
急速に発展する中国の宇宙開発（日本語）
中国の宇宙活動について(PDF), 富窪高志（日本語）
中国の宇宙開発白書（2001年）（日本語）（英語）
中国の宇宙開発（Science Portal China）（日本語）
国家航天局（中国語）,（英語）
中国科学院（中国語）,（英語）
中国の宇宙への野心（pdf） by Joan Johnson-Freese, IFRI Proliferation Papers n° 18, 2007 （英語）
Dragon Space - 中国の宇宙開発専門のニュースサイト（英語）
今後5年間の中国宇宙計画白書（2006年）（英語）

外部リンク

国家航天局（中国語）,（英語）
中国科学院（中国語）,（英語）
* Dragon Space - 中国の宇宙開発専門のニュースサイト（英語）

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