長浜町バス転落事故

1956年 1月28日、愛媛県喜多郡長浜町（現在の大洲市長浜町）の三ツ石海岸で、伊予鉄道（現伊予鉄南予バス）のバスが転落し、乗員乗客9名全員が死亡するという痛ましい事故が発生しました。

事故の経緯

事故発生時の状況
事故当日、南予地方は低気圧の影響で非常に強い風が吹いており、伊予灘は高波が打ち寄せる荒れた状態でした。当時、磯崎（現在の八幡浜市）から長浜を結ぶ伊予鉄道のバス路線は、海岸線沿いの県道を通っていましたが、その道は海面に近い低い位置にあり、道幅も狭く、荒天時には波が路面を洗うほどでした。そのため、伊予鉄道では経験豊富な運転士を配置していたといいます。

事故発生
この路線では、風速25メートルを超えると運休する基準がありましたが、最終的な判断は運転士に委ねられていました。事故当日の運転士は運行を決断し、磯崎を出発。途中の出海町停留所までは順調に進みましたが、19時55分頃、櫛生停留所に向かう途中の三ツ石と呼ばれるカーブでバスが海に転落しました。乗員乗客全員が死亡したため、正確な転落原因は不明ですが、高波にさらわれた、あるいは波しぶきで視界が悪くなり運転を誤ったなどの可能性が考えられています。

事故発覚の遅れ
バスが転落したにもかかわらず、その事実はすぐには発覚しませんでした。通常、運休する際には大洲営業所に連絡することになっていましたが、この日は連絡がなく、営業所側はバスが運行されたと認識していました。また、終業報告のような仕組みもなかったため、バスが到着していないことにも気づきませんでした。翌朝、大洲行きのバスが前夜のバスの日報がないことから、運休したと誤解しましたが、営業所との認識のずれから、ようやく事故が疑われることとなりました。しかし、警察への通報も遅れ、大洲営業所長が現場を確認してから届け出ることとしたため、さらに発覚が遅れることとなりました。

捜索活動
バスの遭難が明らかになると、すぐに捜索が開始されました。海岸近くの海中からバスの残骸が見つかりましたが、激しい波に揉まれ、原形をとどめていませんでした。29日には遺体は発見されませんでしたが、30日には中学校教諭と運転士の遺体が引き揚げられ、その後も捜索が続けられました。最終的に乗客の遺体はすべて発見されましたが、車掌の遺体は見つかりませんでした。

事故後の動き

新聞報道
この事故は、全国的にも報道されましたが、特に地元愛媛新聞は大きく取り上げ、事故の深刻さを伝えました。当初は乗客8名を含む10名が遭難したと報じられましたが、その後の調査で乗客は7名であることが判明しました。しかし、この訂正は全国紙では報道されず、現在でも10名遭難と記述されていることがあります。

事故再発防止への取り組み
この事故は、バス会社の管理体制の不備を露呈させました。特に、運休の判断が運転士任せになっていた点や、事故発覚が遅れた点などが問題視されました。伊予鉄道は事故後、運輸省から業務改善命令を受け、組織改革、安全運転規範の策定、ダイヤ改正、連絡所の設置などの対策を講じました。
これらの対策により、伊予鉄道のバス事故は大幅に減少しました。

他事業者への影響
この事故は、他のバス事業者にも衝撃を与え、愛媛県警察本部が主体となり、事故防止対策協議会が開催されました。また、高松陸運局も管内のバス事業者に対して、安全対策を徹底するよう指示しました。

慰霊碑の建立
事故の翌月、犠牲者を悼み、二度と悲劇を繰り返さないために慰霊碑が建立されました。慰霊碑には犠牲者9名の氏名が刻まれ、現在でも多くの人々が訪れています。

まとめ

長浜町バス転落事故は、強風という自然の脅威と、バス会社の安全管理体制の不備が重なって起きた悲劇でした。しかし、この事故を教訓に、バス事業者は安全対策を強化し、二度とこのような事故を起こさないよう努めています。この事故は、私たちに安全に対する意識を高めることの大切さを教えてくれます。

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