長野峠 (三重県)

長野峠

長野峠は、三重県津市と伊賀市の間にある標高494mの峠です。この峠は、古くから交通の要所として利用されてきました。かつては国道163号の旧道として、多くの車が行き交いましたが、急カーブや狭い道幅など、危険な箇所が多かったため、長年改良が望まれていました。2008年に新長野トンネルが開通したことで、峠の通過時間は大幅に短縮され、安全な通行が可能になりました。しかし、旧道や旧トンネルには、峠の歴史が刻まれており、多くの人々の記憶に残っています。

歴史

長野峠は、桐原書店発行の『日本百名峠』にも選ばれています。その歴史は古く、飛鳥奈良時代には、朝廷と伊勢神宮を結ぶ奈良街道の一部として利用されていました。12代景行天皇の皇女である五百野姫が、都へ帰る途中でこの地で亡くなったという伝説も残っており、峠近くの地名「五百野」は、彼女の名に由来すると伝えられています。また、古くは馬野峠と呼ばれていましたが、鎌倉時代後期に長野工藤氏の勢力が拡大するにつれて、長野峠と呼ばれるようになったと言われています。

戦国時代には、徳川家康が本能寺の変の際に、この峠を越えて岡崎城に帰還したという説があります。江戸時代には、藤堂高虎が津城と伊賀上野城を結ぶ重要な街道として整備しましたが、長野峠は軍事的な理由から、豊臣氏滅亡後に拡幅工事が行われました。この時、奈良街道と呼ばれていた道は、津と伊賀を結ぶ官道として整備されたことで、伊賀街道と呼ばれるようになりました。伊賀地域からは、伊勢街道とも呼ばれています。

元禄2年（1689年）には、俳人松尾芭蕉が伊勢神宮参拝後、伊賀へ帰る途中に峠の茶屋に立ち寄り、「初しぐれ 猿も小蓑をほしげ也」という句を詠みました。この句は、峠から伊賀方面へ約500m下った場所にある猿蓑塚に、芭蕉句碑として残っています。

明治時代には、伊勢暴動の一揆隊がこの峠を越えて伊賀に侵入したという事件もありました。1993年には、国道の区間変更により、長野峠を通る伊賀街道は県道から国道163号線に昇格しました。

長野峠の四つのルート

長野峠には、時代ごとに4つのルートが存在します。

1. 旧峠のルート：飛鳥奈良時代から明治時代まで利用されたルートです。現在も通行可能ですが、車両の通行はできません。
2. 初代長野トンネルのルート：1885年に建設されたトンネルです。しかし、現在は崩壊しており通行できません。花崗岩製のアーチ状の構造が特徴で、「明治のトンネル」と呼ばれています。
3. 二代目長野トンネルのルート：1939年に建設されたトンネルです。初代トンネルのほぼ真下に建設されましたが、現在では通行禁止となっています。「昭和のトンネル」と呼ばれています。
4. 新長野トンネルのルート：2008年に開通した現在の国道163号です。二代目トンネルの下に建設され、「平成のトンネル」と呼ばれています。

各種データ

位置：北緯34度45分42秒 東経136度19分36秒
標高：494m
分水嶺：峠の東側は伊勢湾へ、西側は大阪湾へと注ぐ

峠と関わりがある名所・旧跡・観光地

犬塚：義犬伝説発祥の地。
蛙石：新長野トンネル津市側入り口付近にある蛙の形をした石。
青山高原：多数の風力発電用風車が設置されています。
経が峰：地元登山愛好家に人気の山です。
大山田新大仏寺：源頼朝が後鳥羽法皇の勅願寺として開創した寺。
馬野渓谷：夏の海水浴や秋の紅葉スポットとして知られています。
大山田温泉：県外からも多くの観光客が訪れる温泉地。
* 長野氏城跡：鎌倉時代に長野工藤氏が居城とした場所。国の史跡に指定されています。

まとめ

長野峠は、歴史、文化、自然が織りなす魅力的な場所です。新トンネルの開通によって交通の便は大きく改善されましたが、旧道やトンネル跡には、峠の歴史が今もなお息づいています。長野峠を訪れる際には、これらの歴史的背景を理解することで、より深く楽しむことができるでしょう。

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