伊勢暴動

伊勢暴動

伊勢暴動は、1876年（明治9年）12月に三重県飯野郡（現在の松阪市）で発生し、愛知県、岐阜県、堺県にまで拡大した、地租改正に反対する大規模な農民一揆です。参加者は5万人を超え、当時の最大規模の暴動事件となりました。

背景

明治維新後、新政府は税制改革の一環として地租改正を実施しました。これは、従来の米納から金納への変更、そして地価の3％を税とするものでした。しかし、これは農民にとって大きな負担となり、不満が高まっていました。特に、三重県では地租改正の実施状況に地域差があり、北勢では1876年の米価を基準にしたのに対し、南勢では1875年の米価を基準としたため、南勢の農民はより重い税負担を強いられました。また、米価の低迷や自然災害も重なり、農民の不満は頂点に達していました。

発端

1876年12月18日、松阪の農民たちは租税取り立ての延期を求め、戸長らと交渉しましたが、物別れに終わりました。これがきっかけとなり、農民たちは集団で行動を開始、新政府の施設を破壊・放火するなどの暴動に発展しました。

暴動の拡大

一揆は北上し、愛知県や岐阜県にも拡大しました。北勢では、地租改正そのものへの反対が明確でしたが、南勢では貢納石代値段の引き下げが主な要求でした。各地で役所や学校、銀行などが襲撃され、混乱が広がりました。

松阪方面

約1万人の一揆隊が松阪の市街地を襲撃し、三井銀行を焼き討ちしました。しかし、県庁派遣の士族の到着により、農民側は敗北しました。

津・上野の攻防

津を目指した一揆隊は県庁の防衛により侵入できず、敗退しました。伊賀方面では、上野支庁を目標にした一揆隊が士族との戦闘で敗走しました。

北勢への波及

鈴鹿、亀山、四日市、桑名、員弁など、北勢地域でも暴動が激化しました。四日市では電信局や郵便会所が攻撃され、桑名では「御一新後ニ出来候分ハ不残焼払候事」という方針で、新政府に関わる施設が徹底的に破壊されました。

山田方面

山田（現在の伊勢市）では、新政府の施設に加え、特権商人である地主の家も焼き討ちにあいました。伊勢神宮への被害はありませんでしたが、町は大きく炎上しました。

隣接県への波及

三重県から愛知県、岐阜県へと一揆は拡大しました。愛知県では、地価査定への不満が背景にあり、岐阜県では、学校や民家が放火される被害が出ました。

暴動後の社会情勢

政府は伊勢暴動を受け、地租を3％から2.5％に引き下げました。これは農民の勝利とされ、「竹槍でドンと突き出す二分五厘」と歌われましたが、実際には多くの犠牲を伴うものでした。また、国家歳入は大幅に減少し、政府は財政再建を迫られました。

研究史

伊勢暴動の研究は、経済史学や郷土史学の両面から進められてきました。地租改正が暴動の主目的であるという説が一般的ですが、米価高騰や地域間の税負担の不公平感など、複合的な要因があったと考えられています。

名称について

「伊勢暴動」という名称は大正時代に定着しましたが、当初は「藁焼き暴動」や「伊勢農民暴動」など、さまざまな呼び方がされていました。近年では、「東海大一揆」という呼称も提案されています。

まとめ

伊勢暴動は、明治初期の農民の不満が爆発した事件であり、地租引き下げを実現させた重要な出来事です。しかし、それは多くの犠牲を伴うものであり、その教訓を歴史から学ぶ必要性を示唆しています。

この暴動は、単なる税金に対する反発だけでなく、新しい社会制度に対する抵抗、そして民衆の力強さを象徴する出来事として、歴史に刻まれています。

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