長野電鉄2000系電車

長野電鉄2000系電車：半世紀を駆け抜けた名車

長野電鉄2000系電車は、1957年に登場した特急形車両です。その斬新なデザインと、当時の地方私鉄としては非常に先進的な技術が導入されており、長年にわたり長野電鉄の看板車両として活躍しました。

概要

1957年から1964年にかけて、3両編成4本（計12両）が日本車輌製造で製造されました。当時としては最新鋭の機構と上質な設備を備え、地方私鉄の電車としては稀有な存在でした。半世紀にわたり、長野市と湯田中温泉・志賀高原を結ぶ特急列車として運用され、長野電鉄のイメージアップに大きく貢献しました。しかし、老朽化と後継車両の導入により、2012年3月に惜しまれつつ全ての運用を終えました。

編成

2000系は、両先頭車が電動車、中間車が付随車であるMTM編成です。起動加速度2.6km/h/s、減速度3.5km/h/sという性能を持ちます。基本は3両編成ですが、必要に応じて2両や4両での運転も可能でした。ただし、冷房化改造時に付随車に補助電源装置が搭載されたため、事実上付随車を抜いた運行は不可能となりました。

車両構造

車体

全長18,600mmの2ドア車体で、プレス鋼材を用いたセミモノコック構造です。前面は湘南顔と呼ばれる2枚窓、側面には2段窓が特徴的です。全体的に曲線基調のデザインで、名古屋鉄道の5000系（初代）や5200系の影響を強く受けています。張り上げ屋根構造やファンデリア装備による二重屋根など、当時としては珍しい構造も採用されています。特に4編成目は、モニターの廃止やスノープラウ・スカートの装備など、他の編成とは異なる特徴的な外観を持っていました。

車内

車内は、戸袋部分にロングシート、その他は回転クロスシートが配置されています。回転クロスシートの採用は、乗り心地への配慮が窺えます。天井は非常に高く、連続カバー付きの蛍光灯やファンデリアがスマートに配置されていました。内装には、当時最新の素材であるアルミデコラが用いられています。

主要機器

台車

日本車輌NA4P形（付随車はNA4形）のオールコイルばね台車を採用しています。第4編成のみ、ベローズ式空気ばね装備のウイングばね台車NA315形を装備していました。

モーター

三菱電機製のWN駆動モーター「MB3032-A形」を採用しています。これは、狭軌用WNモーターとしては日本初の75kW形電動機でした。

制御装置

三菱電機製の「ABF-108-15形」自動加速式単位スイッチ制御器を搭載しています。これは、当時の私鉄では珍しかった「1C8M方式」を採用したもので、機器類の搭載量を削減することに成功しました。また、勾配抑速ブレーキ機能を備え、山岳路線での安全な走行を可能にしました。

ブレーキ

作動性の高い「HSC-D」電空併用電磁直通ブレーキを採用しています。これは、当時最新鋭のブレーキシステムであり、地方私鉄としては最初の採用例でした。

開発の経緯

志賀高原と長野電鉄

長野電鉄は、志賀高原の観光開発に深く関わっており、「志賀高原は長野電鉄が作った」とさえ言えるほどです。長野電鉄は、1927年に湯田中温泉まで路線を開業させ、温泉などの観光資源に早くから着目していました。同社の社長であった神津籐平は、地元共有地を借り受け「志賀高原」と名付け、リゾート地として宣伝しました。

特急電車開発へ

戦後の観光客増加に伴い、長野電鉄では輸送力不足が深刻化していました。その対策として、1956年に新型特急電車の導入を決定。その開発にあたり、長野電鉄は日本車輌製造に対し、以下のような条件を提示しました。

3両編成を基本としつつ、必要に応じて2両や4両での運転を可能とする
軽量で強度のある準張殻構造を採用する
流線型の外観と快適な客室設備を備える
軽量で高速に適する防振台車を用いる
75kW級のモーターと狭軌用のWN駆動装置を採用する
電空併用ブレーキや降坂抑速ノッチを設ける

長野電鉄は、車体設計のベースとして名古屋鉄道5000系を指定し、日本車輌東京支店で開発が進められました。

狭軌用WN駆動装置

当時、WN駆動方式は標準軌の鉄道で実績がありましたが、狭軌での採用は困難でした。三菱電機は、モーターとWN継手の小型化によりこの課題を克服。長野電鉄2000系は、狭軌用WN駆動の画期的な成功例となりました。

沿革・運用

1957年3月15日から、長野 - 湯田中間で特急運転を開始。当初は「しらね」「よこて」など、志賀高原にちなんだ列車愛称が付けられていました。2000系は、その居住性と斬新な外観により、長野電鉄のイメージアップに大きく貢献しました。1980年代まで「ロマンスカー」として宣伝されていましたが、1990年代に入りその名称は使われなくなりました。1962年には長野 - 木島間で特急「のざわ」が設定されましたが、後に廃止されています。

展望電車3000系の構想

特急電車の増備にあたり、当初は前面展望電車「3000系」が計画されましたが、タブレット交換の問題などから見送られ、2000系の増備で済まされました。しかし、その増備されたD編成には、空気ばね台車やスカートなど新しい試みが導入されています。

改造・冷房化

1981年には、長野線長野 - 善光寺下間の地下化工事に伴い、難燃化対策や誘導無線取り付けが行われました。1989年からは冷房化工事が開始され、大型の集約分散式冷房装置が搭載されました。また、この際に内装の張り替え、前照灯の交換なども行われています。

1999年には、A編成のみ台車交換や制御機器の変更が行われ、性能が向上しました。また、この頃には全編成がワンマン運転に対応する改造を受けています。

末期の動き

2005年以降、後継車両の導入に伴い、2000系は順次運用を離脱しました。2011年にはA編成が、2012年3月にはD編成が営業運転を終了しました。引退前の2007年には、登場時の塗装に復刻された編成も登場し、多くの鉄道ファンを魅了しました。D編成は、引退後もイベント列車や臨時列車として運行されました。

保存車

D編成は引退後、小布施駅構内の「ながでん電車のひろば」にて静態保存されています。A編成は解体されましたが、B編成とC編成は既に解体されています。

長野電鉄2000系は、その先進的な技術と美しいデザインで、半世紀にわたり長野の人々に愛されてきました。その功績は、鉄道史に長く語り継がれることでしょう。

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