開明書店

開明書店：中国出版史における啓蒙の灯

開明書店は、1926年8月1日に章錫琛によって上海で創立された出版社です。中華民国時代の中国において、教育の普及と文化の発展に大きく貢献しました。その設立の背景、成長の過程、そして現代中国における終焉まで、その歴史を詳細に見ていきましょう。

設立の背景

創立者の章錫琛は、もともと上海商務印書館の編集者であり、月刊誌『婦女雑誌』の編集長を務めていました。しかし、1925年に掲載された記事が論争を呼び、雑誌の事前検閲が行われることになったため、章はこれに不満を抱き、新たな女性雑誌『新女性』を創刊しようと試みました。しかし、この計画が発覚し、商務印書館を解雇されることになります。

一方、夏丏尊や豊子愷らは、春暉中学での教育活動が行き詰まり、上海で私立の立達学園と立達学会を設立しました。立達学園は学生の主体性を重視する教育機関であり、多くの関係者が日本留学経験を持っていました。章はこのような状況の中、1926年8月に開明書店を創立します。

出版活動と成長

開明書店は、青年のための良書や啓蒙図書、そして立達学園の教員による教科書・参考書の出版を目的としていました。その後、商務印書館の同僚であった葉紹鈞なども参加し、出版活動は拡大していきます。当初は章錫琛とその弟による小さな出版社でしたが、1929年には株式会社となり、急速に成長しました。1932年の第一次上海事変で商務印書館が大きな被害を受けた際には、多くの社員が開明書店に移籍し、組織はさらに強化されました。

開明書店は、商務印書館時代の章錫琛の同僚や、文学研究会、立達学会など、様々なグループの後援によって成り立っていました。しかし、立達学会が右傾化すると、初期の会員は学会を去り、開明書店も学会から離れるようになります。

戦争と再建

1937年の第二次上海事変で、開明書店の上海本店は焼失し、上海での経営が困難になりました。1941年には范洗人によって桂林に事務所が設けられ、1944年には重慶に移って営業を続けました。戦後、再び上海に戻り、活動を再開しました。

中華人民共和国成立後

中華人民共和国成立後の1950年、開明書店は公私合営方式の会社となり、本社は北京に移転しました。1953年には青年出版社と合併し、中国青年出版社が成立、開明書店としての歴史に幕を閉じました。ただし、台湾には別に開明書店が存在しています。

主要な出版物

開明書店は教育に力を入れ、特に林語堂の英語教科書『開明英文読本』は広く普及しました。この教科書には豊子愷が挿絵を担当し、ダニエル・ジョーンズによるレコードも販売されました。また、葉紹鈞は自ら『開明国語読本』を編纂しました。児童文学では、『クオーレ』の翻訳である夏丏尊訳『愛的教育』がベストセラーとなりました。

雑誌出版も行っており、立達学会の機関誌『一般』、婦女問題研究会の『新女性』、文学研究会の『文学週報』などを発行していました。1930年には、13歳から20歳を対象とした啓蒙雑誌『中学生』を創刊し、若者への教育普及に貢献しました。

その他、1934年には朱起鳳の『辞通』が出版され、茅盾や巴金の小説も多く開明書店から出版されました。

開明書店の活動は、中国の出版史において重要な位置を占めており、その教育普及への貢献は高く評価されています。

参考文献
大野公賀「1920年代および30年代上海における立達学園と開明書店」『津田塾大学紀要』第42巻、2010年、307-335頁
絹川浩敏「「文人書店」から近代的出版機構へ : 開明書店の歩み」『社会システム研究』第22巻、立命館大学社会システム研究所、2011年3月、111-123頁

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