商務印書館

商務印書館：中華圏を代表する老舗出版社

商務印書館（しょうむいんしょかん）は、1897年2月11日に設立された中華圏で最も重要な出版社・書店の一つです。清朝末期、上海のアメリカ長老会印刷所「美華書館」に勤務していた夏瑞芳（か・ずいほう）、鮑咸恩（ほう・かんおん）、鮑咸昌（ほう・かんしょう）、高鳳池（こう・ほうち）の4名が、長老会の牧師G・F・フィッチの支援を受けて創業しました。当初は商業簿記を主な取扱分野としていたことから、「商務」の名が付けられました。

歴史

黎明期と教科書出版

1902年、商務印書館は正式に印刷所を開設し、蔡元培（さい・げんばい）を所長とする編訳所・発行所を設立しました（後に張元済が所長に）。張元済、高鳳岐、夏曽佑らが加わり、組織を強化しました。

1903年には、日本の出版社である金港堂と合弁事業を開始。金港堂から派遣された長尾雨山らの監修のもと、中国初の小学校教科書である『最新国文教科書』を出版しました。この教科書は全国で広く採用され、その後も小中高の教科書を刊行し、中国の教育界に大きな影響を与えました。同年には厳復訳『群学肄言』、林紓等訳『伊索寓言』といった翻訳書も出版し、後世に大きな影響を与えました。

雑誌創刊と事業拡大

1904年には『東方雑誌』を創刊し、1907年には閘北華界宝山路に新社屋を構えました。1909年には『教育雑誌』、1910年には『小説月報』、1911年には『少年雑誌』を創刊し、出版事業を拡大しました。1914年には創業者で総経理であった夏瑞芳が死去しましたが、香港に支社を設立し、さらに『学生雑誌』を創刊しました。また、同年に金港堂との合弁を解消しました。

新式辞書と人材登用

1915年には新式の辞書である『辞源』の第1部を出版し、1916年にはシンガポールに支社を設置しました。1921年には、胡適の推薦で王雲五が任職し、1930年には総経理に就任しました。王雲五は商務印書館の近代化を推進し、組織を大きく発展させました。

戦火と移転

1924年には東方図書館を設立しましたが、1932年の第一次上海事変（一二八事変）で、商務印書館と東方図書館は日本軍の空襲によって焼失するという悲劇に見舞われました。

1954年には本社を上海から北京に移転し、西欧の学術名著を積極的に出版しました。その代表的なものが『漢訳世界学術名著叢書』であり、累計10集400種以上が刊行されています。

現在の商務印書館

現在は、中国本土、香港、マカオ、シンガポール、マレーシアに拠点を持ち、事業を展開しています。1948年に設立された台湾の台北分館（支社）は、中華人民共和国の成立によって「台湾商務印書館」として分離独立しました。

1993年には、中国、香港、台湾、シンガポール、マレーシアの五地域の商務印書館が共同出資し、「商務印書館国際有限公司」を設立しました。

関連事項

中華書局: 商務印書館と並ぶ、中華圏を代表する出版社
金港堂: かつて商務印書館と合弁事業を行った日本の出版社
新華字典: 中国で最も普及している辞書の一つ

関連文献

樽本照雄『商務印書館研究論集 増補版』清末小説研究会、2006年。NCID BA79006820
趙景達 ; 原田敬一 ; 村田雄二郎 ; 安田常雄 編『講座 東アジアの知識人 2 近代国家の形成』有志舎、2013年。ISBN 978-4903426778。（「張元済と商務印書館―出版業と近代的教科書の成立」）
田雁 著、小野寺史郎 ; 古谷創 訳、中村元哉 解説『近代中国の日本書翻訳出版史』東京大学出版会、2020年。ISBN 9784130262750。
トーマス・Ｓ・マラニー 著、比護遙 訳『チャイニーズ・タイプライター 漢字と技術の近代史』中央公論新社、2021年。ISBN 9784120054372。（社員の周厚坤や舒震東による中国語タイプライター開発について）

外部リンク

商務印書館（北京）
商務印書館（台湾）
商務印書館（香港）
* 『商務印書館』 - コトバンク

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