阻塞気球

阻塞気球：空中防壁の歴史と技術

第二次世界大戦以前から、低空飛行する航空機に対する防御手段として用いられてきた阻塞気球は、金属ケーブルで地上に繋留された大型の気球です。軽量な合成繊維が普及する以前は、その強度を保つために金属ケーブルの使用が不可欠でした。敵機はケーブルに衝突するか、あるいは攻撃が困難になることで、攻撃を阻止することが目的でした。より確実な効果を狙い、一部には少量の爆発物が付加されたものも存在しました。

しかし、阻塞気球は低空飛行の航空機に対してのみ効果を発揮します。高度が高くなると、ケーブルの重さが運用上の大きな制約となるからです。

第二次世界大戦における阻塞気球

第二次世界大戦において、阻塞気球は重要な防空手段として各国で運用されました。イギリスでは1938年、都市や重要施設を守るため、空軍気球軍団が設立されました。1500メートル以下の高度を飛行する急降下爆撃機を、高射砲の射程圏内に誘導することが主な目的でした。低空を高速で飛行する航空機は、高射砲では捕捉が困難だったためです。

1940年代半ばまでには、イギリスは1400個以上の阻塞気球を配備し、その多くはロンドン周辺に集中しました。1939年9月6日、ドイツ空軍による開戦後の最初のイギリス空襲は、チャタム上空に展開していた多数の阻塞気球によって阻止されたと伝えられています。

急降下爆撃機は、無防備な目標に対しては極めて効果的でしたが、戦闘機からの攻撃には脆弱でした。イギリス空軍の対策により、ドイツ軍によるイギリスへの急降下爆撃はすぐに中止されました。阻塞気球は、高空を飛行する爆撃機には効果が限定的でしたが、1944年には約3000個まで生産が続けられました。V1飛行爆弾に対しても、ある程度の効果を上げ、公式記録では231機のV1が阻塞気球によって破壊されたとされています。

多くの爆撃機は、阻塞気球のケーブルを切断するための装置を搭載していました。イギリスが大量の阻塞気球を使用したため、ドイツは高度なケーブル切断装置を開発しました。この装置は、翼に取り付けられた小さなC字型の装置で、ケーブルが触れると小型の爆薬を起爆させ、ブレードでケーブルを切断する仕組みでした。

イギリスでは、ケーブル切断後の航空機墜落を誘発する「ダブルパラシュートリンク（DPL）」や、気球の損失を防ぐ「ダブルパラシュート/リッピング（DP/R）」といった工夫も施されました。DPLは、ケーブルの一部を切断し、パラシュート付きのケーブルで航空機を墜落させる仕組みです。DP/Rは、気球が解放された際に、パラシュートとパネルの剥離によって気球を安全に地上に降下させるための装置です。

ソビエト連邦では、モスクワのクレムリンを防空するために、300を超える阻塞気球が配備されました。ロンドンなどよりもはるかに高い4000メートルの高度に設置されたとされています。イタリア軍はタラント軍港に阻塞気球を配置しましたが、イギリス海軍の低空からの攻撃を防ぐことはできませんでした。

日本軍も太平洋戦争において本土防空に阻塞気球（防空気球）を使用しました。「メリディアン作戦」では、イギリス軍戦闘機2機が日本軍の阻塞気球に接触し撃墜されました。日本軍は九三式、一式、二式防空気球などを陸軍が、四式防空気球や防空凧を海軍が使用しました。

阻塞気球の欠点

阻塞気球は有効な防空手段でしたが、同時に深刻な欠点も抱えていました。1942年、カナダとアメリカの国境付近で発生した嵐により、阻塞気球のケーブルが送電線をショートさせ、金属生産工場に深刻な被害を与えました。この事故を教訓に、冬季は阻塞気球を格納し、空襲警報時に展開する運用が導入されました。

現代における事例

2022年のロシアによるウクライナ侵攻では、ウクライナ軍によるドローン攻撃に対抗するため、ロシア軍が阻塞気球を配備した事例が報告されています。

まとめ

阻塞気球は、航空機による攻撃から地上目標を守るための重要な防空手段として、長年にわたり使用されてきました。その歴史と技術的側面を理解することは、現代の防空システムを考える上で重要な視点となります。しかし、その運用には様々な課題やリスクも伴うことを理解しておく必要があります。

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