阿久津川高一郎

阿久津川高一郎：相撲界に多大な貢献を残した力士と指導者

阿久津川高一郎（あくつがわ こういちろう、1897年9月30日-1972年10月20日）は、栃木県宇都宮市出身の大相撲力士です。高砂部屋、錣山部屋に所属し、最高位は西前頭筆頭（1923年1月場所）に上り詰めました。身長170cm、体重98kgと小柄ながら、その持ち前の腕力と独特の突き押し、そして速い相撲で知られていました。

現役時代：小兵ながらの活躍

1914年5月場所に初土俵を踏んだ阿久津川は、入門から順調に番付を上げ、1920年1月場所に新入幕を果たします。十両時代には2場所連続優勝という輝かしい成績を残しています。独特の突き押しは「三角突っ張り」と呼ばれ、注目を集めました。幕内では中堅力士として活躍し、1922年5月場所には横綱・栃木山から金星を獲得、大関・常ノ花を破るなどの活躍を見せました。1927年10月場所では9勝2敗の成績で優勝旗手にもなっています。しかし、その後は徐々に衰えを見せ、1929年1月場所に引退しました。

阿久津川の引退を早めた要因として、内弟子のように育てた男女ノ川（なんじのかわ）の幕内昇進が挙げられています。師弟で幕内力士として土俵に立つ姿を写真に残しており、阿久津川が男女ノ川よりも身長が低いことが、その時代の大きさを物語っています。

引退後：指導者として相撲界に貢献

引退後は年寄佐渡ヶ嶽を襲名し、独立して相撲部屋を開設。そして、男女ノ川を横綱にまで育て上げました。男女ノ川の支援に尽力し、横綱一代年寄制の創設、年寄への推薦など、その尽力は多大なるものでした。

相撲界への貢献は指導者としてのみではありませんでした。1930年には相撲基本体操（現在の相撲健康体操の原型）を考案し、1933年には協会がこれを公式体操として採用しました。私財を投じて一般への相撲普及、指導者養成にも力を注ぎ、1936年には「大日本国技研修会」（戦後は「財団法人日本相撲研修会」と改称）を設立しました。太平洋戦争中は長野県の戸隠山に研修会道場を移し、指導にあたりました。東京高等師範学校教授・大谷武一の強い支持を受け、戦時下の相撲指導者として大きな存在感を示しました。栃木県にも道場を開設し、入所者が農業などを営みながら相撲を学ぶという独自のシステムを確立しました。戦後は妻とともにこの道場で入植活動を行いました。

協会理事として14年間、理事長補佐も務めました。しかし、理事会では相撲道を重視する佐渡ヶ嶽と興行を優先する武蔵川（元出羽ノ花）との対立が激しく、「犬猿の仲」とまで言われました。理事長の出羽海（元常ノ花）が佐渡ヶ嶽が力を入れていた指導部廃止を表明したことに反発し、1955年1月、協会を去りました。

協会を去った後は、一般への相撲指導に専念しました。1957年には国会で協会の体質が問題視されると、参考人として出席し、指導者養成機関の必要性などを指摘、協会のあり方を批判しました。

1960年には藍綬褒章、1971年には勲五等双光旭日章を受章。1972年10月20日、75歳で死去しました。

エピソードと相撲観

阿久津川は、ちゃんこの作り方にこだわる力士や親方のエピソードを残しています。また、一般への相撲指導では、「初心者はまず土俵外に出す技を基礎として修練すべき」と主張し、突き押しを重視する指導を行いました。戦前は「真心と体力と気力の日本的調和」と相撲道を捉えていましたが、戦後は「体育的に考えて相撲をする」「健康で長生きするのが相撲の本心」と、人々が楽しく相撲をとることの大切さを説きました。興行としての「大相撲」とは一線を画す「相撲道」を生涯貫きました。

阿久津川高一郎は、力士としてだけでなく、指導者、教育者として相撲界に多大な貢献を果たした人物と言えるでしょう。彼の相撲道への情熱と、後進育成への献身は、今もなお相撲界に影響を与え続けています。

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