阿部正倫

阿部正倫（あべ まさとも）は、江戸時代中期から後期にかけての大名であり、備後国福山藩の第4代藩主として知られています。彼は江戸幕府の幕閣においても重要な役割を果たし、寺社奉行や老中といった要職を歴任しました。阿部家宗家8代当主であり、官位は従四位下・伊勢守。後に幕末の動乱期に活躍する阿部正弘の祖父にあたります。

生涯

阿部正倫は、福山藩の第3代藩主・阿部正右の三男として生まれました。長兄と次兄が相次いで亡くなったため、嫡子となります。明和4年（1767年）には備中守に任ぜられ、従五位下に叙せられました。明和6年（1769年）に父・正右が死去したため、家督を継ぎました。

藩主就任時、福山藩の財政はすでに危機的な状況にありました。正倫は財政改革に乗り出しますが、天候不順も重なり、事態は好転しません。一揆の勃発も重なり、財政はさらに悪化の一途をたどります。

そこで正倫は、叔父の安藤主馬に代えて、遠藤弁蔵を財政再建の担当に抜擢します。遠藤は収入増加に成功しますが、その施策は苛烈を極め、領民の恨みを買うことになります。さらに、福山藩は「上下銀」という高利の借入にも手を染め、藩財政は深刻な状況に陥ります。江戸に在府していた正倫は、帰国するまでその実情を把握できませんでした。

上下銀の返済に苦慮した正倫は、田沼意次への働きかけや寺社奉行の地位を利用し、返済の凍結に成功します。最終的には借入の担当者であった佐藤新四郎を藩内から追放することで事態の収拾を図りました。遠藤弁蔵は、後に起こる天明大一揆の責任を問われ、獄死しました。

幕政においては、安永3年（1774年）に奏者番に就任し、同年には寺社奉行を兼任するなど、順調に出世を重ねました。天明7年（1787年）には老中に抜擢されますが、老中就任を祝うための臨時税を領民に課そうとしたことがきっかけで、藩領全域を巻き込む大規模な一揆（天明大一揆）が勃発します。また、松平定信を中心とする改革派の攻勢を受け、田沼派に属していた正倫は立場を失い、病を理由に天明8年（1788年）にわずか11ヶ月で老中を辞任しました。

老中辞任後、正倫は藩政の立て直しに専念するため福山に帰国しますが、藩内の綱紀の乱れは想像以上でした。それでも、藩士教育のため、福山城西堀端に藩校である弘道館（現在の広島県立福山誠之館高等学校の前身）を創設するなど、士風の振興に尽力します。また、藩主親政による徹底した経費削減や有力商人への接近、農政改革など、矢継ぎ早に政策を実施していきました。その結果、財政再建には至らなかったものの、一揆を鎮めることには成功しました。

享和3年（1803年）に家督を三男の正精に譲り、文化2年（1805年）に死去しました。藩主在任期間は34年に及び、阿部家福山藩においては最長となります。

阿部正倫は、幕政での活躍と藩政での苦悩が交錯する、複雑な生涯を送った人物でした。

年表

1745年（延享2年）：生誕（延享3年の説もあり）
1767年（明和4年）：従五位下・備中守
1769年（明和6年）：藩主就任
1774年（安永3年）：奏者番に就任、寺社奉行を兼務
1787年（天明7年）：従四位下・伊勢守、老中に転任
1788年（天明8年）：老中を辞職
1803年（享和3年）：藩主退任
1805年（文化2年）：死去

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