阿部正勝

阿部正勝（あべ まさかつ）

阿部正勝は、戦国時代から安土桃山時代にかけての武将で、徳川家の家臣として活躍しました。徳川家康より一歳年長で、幼少の頃から家康に仕え、その生涯を支えた重要な人物です。

生涯

少年期

1547年、6歳（または7歳）の家康が今川義元の命で駿河国へ向かう際、正勝は家康の「遊び相手」として同行しました。尾張では、天野康景と共に家康に付き従いました。
1549年、家康が人質交換で駿府に移ると、正勝もこれに従い、家康に仕えました。今川義元が家康に散楽を所望した際には、正勝が代役を務めたとされています。1556年、家康と共に元服し、「善九郎正勝」と名乗り、後に今川家の家臣・江原三右衛門定次の娘を娶りました。

家康の自立後

1558年、家康の初陣である三河国寺部城攻めに従軍し、その後も広瀬・挙母・伊保城攻めで功績を挙げ、知行地を得ました。1560年、桶狭間の戦いでは家康の旗本を守り、1562年には家康の命で軍書48巻を写本しました。
三河一向一揆では、家康に仕え奮戦し、葵の紋の馬印を許されました。しかし、正勝は遠慮して薄墨で葵紋を描き、「染薄墨御紋の馬験」と名付けました。
1573年からは天竜川方面で武田勝頼との戦いに参加し、1575年の長篠の戦いでも軍功を挙げました。1576年には、不正を働いた徳川家臣・佐橋甚五郎を処刑しています。
1582年、若神子の対陣では北条氏との和睦交渉役を務め、1585年には旗本や諸士の献策の窓口の得失を測るよう家康から命じられました。後に御旗大将に任じられ、知行地を加増されました。1586年、家康が豊臣秀吉と和議を結ぶと、家康に従い上洛し、従五位下伊予守に叙任されました。

家康の関東入国後

1590年の小田原の役では、旗本の右軍の備えを担いました。同年、家康が関東に入国すると、武蔵国足立郡鳩ヶ谷に5000石の知行地を与えられました。この知行地は後に子の正次の代に加増され、鳩ヶ谷藩となります。
1593年、家康の肥前国名護屋城行きに同行しましたが、息子の正次が命令に背き無断で随行したため、江戸に送還されるという事件も起こっています。1596年には豊臣姓を下賜され、1598年には大坂城西の丸の留守居役を務めました。1599年の「伏見騒動」では、伏見の徳川屋敷の守備にあたりました。
「伏見騒動」の頃から健康を害していたようですが、家康から薬の処方を受けています。1600年、病状が悪化すると、家康は村越直吉を派遣し、正勝に労いの言葉を伝えました。同年4月7日、大坂で60歳で亡くなりました。家督は長男の正次が継ぎました。

系譜

父：阿部正宣
母：不詳
妻：江原定次の娘
長男：阿部正次
二男：阿部忠吉
女子：永井直勝正室
三男：阿部正与
生母不詳の女子：大奥に仕える

補足

阿部家は徳川家の譜代の臣とされますが、系図は正勝から始まっているとされています。しかし、『寛政重修諸家譜』には、祖父の阿部正俊、父の阿部正宣の記載があります。父の正宣は、岡崎城の戦いで功績を挙げた他、松平広忠の帰国を実現させ、御旗大将に任じられたと伝えられています。
長男・阿部正次の系統からは、徳川家光に仕えた阿部重次や、幕末期の老中・阿部正弘などを輩出しています。二男・阿部忠吉の子の阿部忠秋も、重次同様に老中を務めています。

備考

家康と共に駿河にいた際、今川義元は梅の実を貫いた槍を家康に、梅の穂を貫いた槍を正勝に与えたという逸話があります。家康は自らの槍を「梅実」、正勝の槍を「梅総」と名付けました。

登場作品

徳川家康（1983年、演：吉田紀人）
豊臣秀吉 天下を獲る!（1995年、演：本城丸裕）
* 徳川家康 戦国最後の勝利者（1992年、演：大場順）

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