阿野全成

阿野全成：源氏の血を引いた僧侶の生涯

阿野全成は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活躍した僧侶です。源義朝の七男であり、源義経とは同母兄、源頼朝とは異母弟という複雑な出自を持っていました。その生涯は、激動の時代を生き抜いた武将、そして僧侶としての葛藤と苦悩に満ちたものでした。

平治の乱で父・義朝が敗死した際、7歳だった全成は醍醐寺で出家。隆超、のちに全成と名乗りました。その後、治承4年（1180年）、以仁王の令旨を聞きつけ、密かに寺を抜け出し、東国へと向かいます。修行僧の姿で身を潜めながら、石橋山の戦いで敗れた頼朝と合流。兄弟として再会を果たした頼朝は全成の志に感激し、涙を流したと伝えられています。

頼朝の信頼を得た全成は、武蔵国長尾寺を与えられ、頼朝の妻・北条政子の妹である阿波局と結婚しました。阿波局はのちに頼朝の次男・千幡（後の実朝）の乳母となり、全成は駿河国阿野荘を領有、鎌倉幕府の御家人として仕えました。

『吾妻鏡』には、建久3年（1192年）まで全成の記述が見られますが、頼朝期には直接的な登場は無く、娘婿である藤原公佐や阿波局との関連において言及されているのみです。一方、『玉葉』には、鎌倉に亡命した頼朝の妹婿、一条能保が全成の邸に滞在したとの記述があり、全成が頼朝周辺の人物との繋がりを持っていたことが伺えます。

頼朝の死後、頼家が鎌倉殿を継ぐと、全成は実朝を擁する北条時政と手を結び、頼家派と対立するようになります。建仁3年（1203年）、頼家によって謀反の疑いをかけられ、常陸国へ配流。そして、頼家の命を受けた八田知家によって殺害されました。享年51歳でした。

全成の死後も、その波乱の生涯は子孫へと影響を与えます。武家としての阿野氏は嫡男の時元に受け継がれましたが、北条氏の警戒からか、それほど大きな勢力とはなりませんでした。一方で、全成の娘と結婚した藤原公佐の子孫は、阿野家（女系）を形成し、後醍醐天皇の寵愛を受けた阿野廉子や幕末の志士、玉松操といった人物を輩出しました。

全成の墓は沼津市の大泉寺に現存し、史跡に指定されています。また、殺害されたとされる栃木県益子町にも、全成と従者の五輪塔が残されています。

阿野全成は、源氏の血を引く僧侶として、激動の鎌倉時代を生きた人物でした。頼朝との複雑な関係、そして北条氏との対立、そして悲劇的な最期。その生涯は、歴史小説やドラマの題材として、今も人々の関心を集めています。彼の生き様は、鎌倉幕府成立期における政治的、社会的な複雑さを映し出す重要な鏡となっています。

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