一条能保

一条能保（いちじょう よしやす）

一条能保は、平安時代末期から鎌倉時代前期にかけての公卿で、藤原北家中御門流に属します。丹波守・藤原通重の長男として生まれ、一条二位入道とも称されました。

経歴

能保は、後白河法皇と同母姉の上西門院の乳母を祖母に持ち、幼少の頃から後白河法皇や上西門院に近い立場にありました。また、母は当時の宮中で勢力を誇った閑院流・徳大寺公能の娘であり、母方の縁も彼の地位を支えました。

3歳で父を亡くした後、祖母に育てられ、後に一条室町邸を譲り受けました。1153年に上西門院の計らいで叙爵し、11歳で丹波守に任官しますが、わずか一年で解任されています。その後、しばらくは国司に任官されませんでした。

1167年、母方の縁から徳大寺家出身の太皇太后・藤原多子に太皇太后宮権亮として仕えます。この時期は官職に恵まれませんでしたが、上西門院の取りなしにより昇進を重ねました。また、源頼朝の同母姉妹である坊門姫を妻に迎えたことも、彼の運命を大きく左右しました。

治承・寿永の乱が勃発すると、能保は一時京を離れ東国へ下向し、鎌倉に滞在しました。平家滅亡後、源頼朝が新たな権力者となると、能保は妻を通じて頼朝から全幅の信頼を得るようになります。後白河法皇による頼朝追討宣旨の発給に関する情報を、詳細に頼朝へ報告するなど、朝廷内の情報を鎌倉に伝える役割を担いました。

頼朝の威光を背景に、能保は急速に昇進し、右兵衛督を務める傍ら、公卿に列しました。参議や検非違使別当も兼任し、朝廷内での地位を確立しました。しかし、延暦寺の強訴における内裏防御の失敗により、検非違使別当を辞任しています。

その後、権中納言に昇進しますが、九条兼実との対立が激化し、政治的な立場は不安定になります。建久七年の政変では土御門通親を支持したとされています。

1194年に病のため出家し、1197年に51歳で亡くなりました。鎌倉幕府4代将軍・九条頼経は、能保の妻の曾孫にあたることから、将軍に擁立されました。

人物

一条能保は、朝廷と幕府の双方に広い人脈を持ち、巧みな政治手腕を発揮しました。後白河法皇や後鳥羽天皇に近侍し重用される一方で、源頼朝からの信頼も厚く、両者の間を取り持つ役割も果たしました。しかし、その一方で、有力公家からの反感も買い、九条兼実との対立は彼の政治生命に大きな影響を与えました。

官歴

一条能保の官歴は以下の通りです。

仁平3年（1153年）：叙爵
保元2年（1157年）：丹波守
仁安2年（1167年）：太皇太后宮権亮
仁安3年（1168年）：従五位上
承安3年（1173年）：正五位下
元暦元年（1184年）：兼左馬頭、讃岐守
元暦2年（1185年）：右兵衛督
元暦3年（1186年）：従四位上
元暦4年（1187年）：正四位下
文治4年（1188年）：従三位
文治5年（1189年）：参議、督如元
文治6年（1190年）：兼伊予権守、左兵衛督
建久2年（1191年）：兼検非違使別当、権中納言
建久4年（1193年）：従二位
建久5年（1194年）：出家
建久8年（1197年）：薨去

系譜

父：藤原通重
母：藤原公能の娘
妻：坊門姫（源義朝の娘、源頼朝の同母姉妹）
男子：一条高能
女子：九条良経正室
女子：一条全子 - 西園寺公経室
女子：一条保子 - 花山院忠経室、後鳥羽天皇乳母
妻：江口遊女慈氏
男子：一条信能
妻：家女房（藤原有恒の娘）
男子：一条実雅
妻：僧仁操の娘
男子：能性
生母不明の子女：能全、長能、尊長、中院通方室、右衛門督局

関連作品

* テレビドラマ『草燃える』（1979年、NHK大河ドラマ、演：平田昭彦）

もう一度検索