阿野家

阿野家：南朝に仕えた公家・華族の歴史

阿野家（あのけ）は、悠久の歴史を誇る公家・華族の家系です。そのルーツは、藤原北家閑院流滋野井家の庶流にまで遡ります。公家としては羽林家、華族としては子爵家の家格を有しており、山本家（羽林家・子爵家）と北大路家（男爵家）という分家も存在しました。

阿野家の家祖は、藤原成親の四男で滋野井実国の猶子であった公佐とされています。興味深いことに、その家系の発展には、源義朝の七男、阿野全成の娘が大きく関わっています。全成の娘が駿河国駿東郡阿野荘の一部を相続し、公佐に嫁いだことが、阿野家の始まりとなりました。公佐と全成の娘の子孫が阿野荘を相続し続け、「阿野」という家名が確立していったのです。

家祖公佐の官歴は詳細には分かっていませんが、その子である実直は宝治3年（1249年）に公卿に列しています。実直の子である公寛と公仲によって家系は二分されましたが、近代まで続いたのは公仲の系統です。公寛の子孫はその後、公卿に昇ることはなくなり、一方、公仲の系統は、5代実廉が後醍醐天皇に仕え、公卿に昇進するという栄華を極めました。さらに、実廉の妹である廉子は後村上天皇を生むという、皇室との深い繋がりも持ちました。

この皇室との縁が、阿野家の運命を大きく左右しました。阿野家は代々南朝に仕え、南北朝時代という動乱の時代を生き抜いたのです。この南朝への忠誠は、家の分裂や弱体化を回避し、南北朝統一後も公家社会に存続することを可能にしました。南朝においては、6代季継が権大納言に、8代実為が後亀山天皇の信任を得て異例の内大臣に昇進するなど、活躍が目立ちました。9代公為も権中納言に昇進したとみられますが、北朝からの叙任を受けた形跡もあるとされています。

10代実治は南北朝統一後の朝廷に仕え、権中納言となり、中流公家の家格を維持しました。しかし、11代公熙が応仁の乱で西軍に属したことをきっかけに、阿野家は徐々に衰退していきました。13代季綱は将軍足利義稙の信頼を得ていましたが、参議の職にあったまま頓死、続く14代季時も早世したため、阿野家は一時断絶することとなりました。

それから約半世紀後、季時の孫にあたる16代実顕が阿野家を再興しました。実顕は慶長17年（1612年）に公卿に列し、正二位権大納言に昇進、江戸時代の阿野家の極位極官とされました。しかし、40代で亡くなる当主が多かったため、実際に極位極官に達したのは、18代公業、19代実藤、21代公緒、23代公縄のわずか4代のみでした。江戸時代の家禄は478石、菩提所は松林院、家業は神楽と有職故実、家紋は唐花、近衛家の家礼として仕えていました。

明治維新後、27代公誠は太政官政府の参与に任命されました。明治2年の華族制度成立により、阿野家も華族に列し、明治17年（1884年）の華族令により、子爵位を授けられました。

一方、阿野全成を祖とする武家の阿野氏も存在しましたが、全成の嫡男時元が討たれた後、勢力を伸ばすことができず、南北朝時代には記録が途絶えています。

このように、阿野家は公家社会において重要な役割を果たし、華族として明治時代まで続いた家系です。その歴史は、皇室との深い繋がり、南北朝時代の動乱、そして華族制度への移行など、日本の歴史そのものを反映していると言えるでしょう。

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