院伝奏

院伝奏（いんのでんそう）とは

院伝奏とは、上皇または法皇（以下、院と記す）への奏請を取り次ぐ院司の役職です。院政において重要な役割を果たしました。

鎌倉時代の院伝奏

院伝奏の起源は鎌倉時代に遡ります。後白河法皇の時代に高階泰経と吉田経房がその地位にあったとされますが、常設の役職となったのは、宝治元年（1247年）に後嵯峨上皇が吉田為経と葉室定嗣を伝奏に任命した時からでした。この2名は、隔日で上皇に出仕し、関東申次が扱う職掌以外の全ての奏事を伝奏することとされました。

院伝奏には、中納言・参議・大弁級の実務に通じた中堅公卿が任じられることが多かったようです。任務が増大するにつれて定員も増加し、弘安2年（1279年）には亀山上皇が定員を6人とし、2名ずつを結番させる制度を設けました。この制度は、後に公家政治の一翼を担う制度として、神宮伝奏や武家伝奏などに分化していくことになります。

江戸時代の院伝奏

江戸時代に入り、明正天皇の譲位に伴って院伝奏は復活し、貞享3年（1686年）の霊元天皇の譲位後に制度として整備されました。定員は2名で、家格に関わらず、院評定や議奏などの実務を経験した正三位以上の公卿から選ばれました。ただし、桜町上皇期には機構改革が試みられ、八条隆英1名のみが任じられたこともありました。

院伝奏は院評定とともに「院両役」と称され、江戸幕府の同意を得て任命されることとされていました。しかし、禁裏の役職である武家伝奏や議奏とは異なり、京都所司代をはじめとする幕府側は、上皇・法皇の人事案を追認するだけの形式的な手続きに留まっていました。役料は30石で、仙洞御所の内分（蔵米）から支給されました。

院伝奏は仙洞御所における実務の最高責任者であり、上皇・法皇の補佐を行い、その言葉を第三者に伝達したり、第三者からの申し入れを上皇・法皇に伝えたりする役割を担いました。また、摂政・関白・武家伝奏などの禁裏御所側や、京都所司代などの幕府側との交渉も担当しました。

仙洞御所内における院伝奏の立場は非常に重く、上皇・法皇との面会や賜物の下賜においては、院伝奏が優先され、摂家や大臣であってもその後塵を拝することとなっていました。

院伝奏は、院政を支える重要な役職であり、その動向は朝廷政治に大きな影響を与えました。

参考文献

橋本義彦「院伝奏」（『国史大辞典 1』吉川弘文館、1979年）ISBN 978-4-642-00501-2
村和明『近世の朝廷制度と朝幕関係』東京大学出版会、2013年 ISBN 978-4-13-026233-0

関連項目

公家政権
伝奏
院参衆
武家伝奏

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