陳日君

陳日君（ジョセフ・ゼン）枢機卿の生涯と活動

陳日君（チェン・ジーチュン、英語名：Joseph Zen Ze-kiun）枢機卿は、1932年1月13日に上海で生まれ、カトリック香港教区の名誉司教、枢機卿、そしてサレジオ会士として、その生涯を信仰と社会正義のために捧げてきました。2002年から2009年までカトリック香港教区の司教を務め、香港社会における重要な宗教的指導者としての役割を果たしました。

若年期と修道生活

上海で幼少期を過ごした陳枢機卿は、12歳でサレジオ会の修道院に入りました。1949年に中国共産党が政権を掌握した後、修道会は学校経営の権利を失い、香港の華南大修道院に移りました。その後、イタリアのトリノにあるサレジオ大学で学び、1961年2月11日にトリノで司祭に叙階されました。1976年から1978年までマカオサレジオ中学校の校長を務め、1986年から1989年まで香港仔工業学校の院長を務めるなど、教育分野でも貢献しました。

香港教区での活動

1996年10月20日、カトリック香港教区の協働司教に任命され、同年12月9日に胡振中枢機卿により司教叙階を受けました。2002年9月23日には、前任の胡振中枢機卿の死去を受けて香港司教の職を継ぎ、同年10月20日に着座しました。2006年3月24日、教皇ベネディクト16世によって枢機卿に任命され、その地位を確固たるものとしました。

政治活動と社会運動

陳枢機卿は、その信仰に基づいて、香港の社会問題や政治問題に積極的に関与しました。特に、香港基本法第23条への反対運動では、市民を愚弄していると政府を強く批判し、2003年7月1日には自らデモ前の祈祷会を率い、多くのカトリック信徒がデモに参加しました。また、天安門事件15周年の前夜には、「民主中国」という活動を主催し、香港の現状を「血を流さない天安門事件の鎮圧」と表現しました。この発言は中国共産党政府の猛烈な批判を招き、薄熙来からは「教会を愛さず、国を愛さない」と非難されました。2005年には、政改方案に対する香港市民の決定権を主張し、政府に民意調査を要求しました。

教育制度改革への反対

2004年、教育局が導入した校本条例（《2004年教育 (修訂) 条例》）による管理政策に強く反対しました。陳枢機卿は、この改革が学校の自主性を損なうと主張し、政府との訴訟も辞さない構えを見せました。2006年初めに教師が相次いで自殺した際には、教育制度改革との関連性を指摘し、改革の一時停止を求めました。

中国大陸との関係

1998年に香港教区の協働司教に任命されて以降、教皇庁の義和団が殺害した宣教師の列聖を支持したため、中国大陸への訪問が6年間禁止されました。この間、中国日報や新華社などから多くの批判を受けました。2004年5月3日に上海を訪問し、対立は一時的に解消されましたが、その関係は依然として緊張していました。陳枢機卿は、法輪功や全国人民代表大会常務委員会の香港特別行政区基本法解釈問題についても、北京の意見に反対する立場を取りました。2009年5月29日には、天安門事件の犠牲者を「殉教者」と表現し、当時の指導者であった鄧小平を非難しました。

中国大陸カトリック教会との関係

中国政府を「邪悪かつ強硬」と批判し、中国大陸の司教が教会の教義を守るよう強く訴えてきました。2018年9月22日にバチカンが中国政府と司教任命権に関する暫定合意に至った際には、「ローマ法王庁は中国の信者を売り渡した」と強く批判しました。教皇フランシスコが中国政府によって任命された司教7人を承認した際には、「（教皇は）中国の体制を理解していない」と述べ、この合意が中国における「真の教会の消滅」につながると警鐘を鳴らしました。

逮捕と引退

2022年5月、香港警察は陳枢機卿を含む4人を国家安全維持法違反容疑で逮捕しました。これは、2019年から2020年の香港民主化デモで負傷・逮捕された参加者を支援する「612人道支援基金」の信託人であったことが理由です。2007年1月には引退を希望していたものの、教皇ベネディクト16世から司教職に留まるよう命じられましたが、2009年4月15日に教皇庁は陳枢機卿の引退を承認し、香港教区の司教職を退きました。

陳枢機卿は、その生涯を通じて、香港の自由と民主主義、そしてカトリック教会の教義を守り抜いた人物として、多くの人々に記憶されています。

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