陶澍

陶澍（とう じゅ）

陶澍（とう じゅ、乾隆43年（1778年） - 道光19年（1839年））は、中国清朝後期の政治家であり、字は雲汀（うんてい）。諡号は文毅（ぶんき）。湖南省安化県出身。道光帝の信任を得て、林則徐らと共に地方行政の改革を推進したことで知られています。

略歴

嘉慶7年（1802年）に進士（科挙の合格者）となり、翰林院庶吉士から官僚としてのキャリアをスタートさせました。江南道監察御使・陝西道監察御使を経て、戸科給事中に就任。その後、山西按察使・福建按察使・安徽布政使などを歴任し、道光3年（1823年）には安徽巡撫に任命されました。

当時、塩の専売による利益は清朝廷財政の4分の1を占めており、中でも両淮地域の利益はその4割に達していました。しかし、嘉慶年間（1796年 - 1820年）後期頃から密売が横行し、収益が低下。さらに、行政経費や慈善事業に充てるための各種付加的徴収といった冗費が重なり、官営製塩事業は崩壊の危機に瀕していました。陶澍は、安徽巡撫として任地における製塩事業の改革を断行します。質の悪かった官塩の価格を私造塩と同等まで引き下げ、密売の取り締まりを強化。また、様々な冗費を削減するなど合理化を図り、塩の品質を高めました。この改革により、淮北塩の売上成績は著しく向上し、道光帝から賞賛されました。

道光6年（1826年）には江蘇巡撫に転任し、漕運および海運事業に携わって実績を上げました。穀倉地帯であった江南から徴税された米を首都北京へ運搬する際には、従来、大運河が利用されていましたが、道光4年（1824年）の黄河の決壊により、大運河の通航が困難となっていました。そこで、陶澍や林則徐らは大運河に代わって海運を重視するよう主張。1826年には、江南地方の米は上海から天津まで海運で運搬されました（ただし、大運河の既得権益を得ていた層からの反発も強く、海運はすぐに廃止されました）。

江蘇巡撫となった陶澍は、海運のみならず江南の水利事業にも取り組みました。太湖を水源とするこの地域の大小河川は、流れが緩やかで土砂が沈澱・堆積しやすく、過去の幾度かの水利事業は、流れが詰まると一時しのぎの支流を作ってしのぐという弥縫策に過ぎませんでした。陶澍はこれを批判し、抜本的な対策を講じるべく現地調査を踏まえた詳細な工費の見積もりを行い、財源を捻出して呉淞江（蘇州河）の河道を浚渫する大工事を実行しました。これらの水利事業は、陶澍の転任後も、後に江蘇巡撫に就任した林則徐によって引き継がれていきました。

これらの功績により、道光10年（1830年）に太子少保兼両江総督となり、以後9年間その職にありました。道光18年（1838年）、イギリス東インド会社による輸入で蔓延していたアヘン問題について、黄爵滋が常用者の極刑を含むアヘン厳禁論を上奏すると、道光帝は各地の大官に対し意見を求めました。陶澍は林則徐と共に黄爵滋の強硬論に賛意を示しています。しかし、翌道光19年（1839年）2月に病を得て官を辞し、同年6月に死去しました。盟友の林則徐が広州に赴任し、大量のアヘンを処分。後のアヘン戦争の引き金となったのは、陶澍の死後でした。

著書には、『印心石屋文集』『陶檀公羊譜』『淵明集輯注』『蜀輶日記』『陶文毅公全集』などがあります。

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