陸奥廣吉

陸奥廣吉

陸奥廣吉（むつ ひろきち、1869年4月16日 - 1942年11月19日）は、日本の華族であり、外交官、教育者としてもその名を残しました。伯爵の爵位を持ち、駐ベルギー特命全権公使や鎌倉女学院の校長を歴任しました。父は外交官として名高い陸奥宗光、弟には古河財閥を支えた古河潤吉、妹に陸奥清子を持つという、名家の出身です。妻はイギリス人女性のガートルード・エセル・パッシングハム（日本名：陸奥イソ）であり、長男には陸奥イアン陽之助がいます。

生い立ちと教育

廣吉は、大坂の紀州藩邸で、紀州藩士であった父・陸奥宗光と母・蓮子の間に長男として生まれました。幼少期には、藩士の子弟としての教育の一環で、胆力を養うため刑場に連れて行かれ、処刑の現場を見るという経験もしています。この経験は、彼の人生観に大きな影響を与えたと考えられます。晩年のインタビューでは、父・宗光の外交手腕について、「『イエス』よりも多く『ノー』と言った」と評しています。

慶應義塾には、紀州藩が費用を負担して藩出身者のための寄宿舎「紀州塾」が設けられていた関係で、廣吉も岡本柳之助、三宅米吉、鎌田栄吉らと共に上京し、慶應義塾に入塾しました。明治38年（1905年）には、特選塾員となっています。その後、イギリスに留学し、ケンブリッジ大学に入学しましたが、卒業には至りませんでした。その後、ロンドン法学院を卒業し、法廷弁護士（バリスター）の資格を得て、明治27年（1893年）に帰国しました。イギリス留学中には、父から送られた資金を受け取るためにアメリカに渡り、星亨と知己を得ています。また、この留学中に、後に妻となるガートルード・エセル・パッシングハムと出会い、交際を経て明治38年（1905年）に結婚しました。

外交官としての活躍

明治28年（1895年）には外務省に入省し、通訳官としてキャリアをスタートさせました。明治30年（1897年）に父・宗光が亡くなると、伯爵の爵位を継承しました。明治31年（1898年）にはサンフランシスコ領事としてアメリカに赴任しましたが、病気のため帰国。その後、駐英大使であった小村寿太郎の下で在イギリス日本大使館一等書記官を務め、明治40年（1907年）には駐英臨時代理大使に就任するなど、外交官として重要な役割を担いました。また、北京、ローマ、マルセイユなどにも赴任しています。明治43年（1910年）には、日英博覧会の事務官として、開催に尽力しました。

教育者・社会事業家として

日英博覧会での功績を認められた廣吉は、明治43年（1910年）に帰国し、大正3年（1914年）には特命全権公使としてベルギーに赴任しましたが、病気のためすぐに退官しました。療養のため、東京府高輪にあった陸奥家の邸宅から鎌倉に転居し、以後は、祖父・伊達千広の教育理念の普及や、弟の古河潤吉が関係する古河財閥の支援、史跡保存、風景美化などの活動に力を注ぎました。また、鎌倉女学校（現在の鎌倉女学院）の設立に尽力しました。さらに、社会事業家として、社団法人「鎌倉同人会」や、弟・潤吉の遺贈金による「雨潤会」を設立するなど、文人としても活動しました。

エピソード

廣吉は、エセルとの結婚を約束した後も、京都、広島、神戸、東京などの遊郭を訪れていたという逸話があります。また、結婚後には、息子である陸奥イアン陽之助に遊女へ桃を届けさせていたというエピソードも残っています。

栄典

位階

1909年（明治42年）7月10日 - 正四位
1913年（大正2年）10月20日 - 従三位
1940年（昭和15年）12月2日 - 正二位

勲章

1895年（明治28年）10月31日 - 勲六等単光旭日章
1902年（明治35年）12月28日 - 勲五等瑞宝章

外国勲章等佩用允許

1902年（明治35年）9月30日 - イタリア王国：王冠第四等勲章

著書

『伯爵陸奥宗光遺稿』（岩波書店、1929年）

脚注

参考文献

杉山茂丸 『明治大陸政策の源流』 原書房、1975年。
三田商業研究会編 編『慶應義塾出身名流列伝』実業之世界社、1909年（明治42年）6月。
下重暁子 『純愛　エセルと陸奥廣吉』 講談社、1994年。
慶應義塾編 編『慶応義塾五十年史』慶應義塾、1907年（明治40年）4月。
「加藤高明と陸奥廣吉」曽我部真裕・赤坂幸一編『憲法改革の理念と展開　大石眞先生還暦記念〔下巻〕』（信山社，2012年）

関連項目

古河虎之助
鎌倉女学院中学校・高等学校

外部リンク

初代理事長・陸奥廣吉伯（1869〜1942）写真提供：華族畫報
陸奥 広吉
* 鎌倉同人会

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