陸定一

陸定一（りくていいつ、1906年 6月9日 - 1996年5月9日）は、中華人民共和国の政治家です。生前は、国務院副総理、中国共産党中央政治局候補委員、党中央書記処書記といった要職を歴任しました。特に長年にわたり党の宣伝部門の責任者として、その理論的支柱を担いましたが、文化大革命という激動期に失脚し長期にわたり軟禁されました。しかし、後に名誉を回復し、晩年は全国政治協商会議副主席として中国政治に関与しました。

初期活動と党内での昇進

1906年、江蘇省無錫県に生まれた陸定一は、南洋大学（現在の上海交通大学）在学中の1925年に中国共産党に入党し、政治活動を開始しました。大学卒業後、中国共産主義青年団での活動や宣伝活動に従事。共産党の指示で、アメリカとソ連への留学経験も積みました。1931年に帰国すると、中国紅軍に参加し、ソビエト区（根拠地）に入って紅軍の機関紙『紅星報』の編集・発行に携わりました。日中戦争中の1942年からは、共産党の重要メディアである『延安解放日報』の総編集長を務め、党のプロパガンダを主導しました。この時期に発表した『新聞学に対する我々の基本的観点』は、中国共産党の宣伝理論の基礎の一つとされています。

1944年には党中央宣伝部長に任命され、その後、文化大革命期に批判を受けるまで、中断を挟みながら約20年もの間、この重要なポストに就きました。中華人民共和国建国を控えた1945年の第7回党大会では中央委員に選出され、党内での地位を確立しました。1956年5月には、学術・文化活動における自由化を促す「百花斉放・百家争鳴」運動に関する報告を行いました。同年9月には、第8期1中全会で党中央政治局候補委員に選出されます。さらに、1959年4月には国務院副総理、1962年には党中央書記処書記に就任し、政府および党の中枢で活動するようになります。1965年からは文化部長も兼任し、党の宣伝部門だけでなく、教育事業も担当するなど、広範な影響力を持つに至りました。

文化大革命での失脚と受難

順調に昇進を重ね、党・政府の要職にあった陸定一ですが、文化大革命の勃発とともにその運命は暗転します。1966年 6月27日、当時の国家主席である劉少奇が主宰した会議で、彼は彭真、羅瑞卿、楊尚昆と共に「反革命集団」の一員とされました。この会議では、「彭・陸・羅・楊」の関係が不正常であるとされ、毛沢東や毛沢東思想に反対する「地下活動」を行っていると厳しく批判されました。この結果、陸定一は全ての公職から解任されます。

翌1967年1月4日には、彼ら4人の「反革命修正主義集団」に対する公開批判大会が開催されました。大会では、陸定一を含む四人は、自分の名前の上に大きなバツ印の書かれた札を首にかけさせられるなど、肉体的、精神的な苦痛を与えられました。その後、彼は13年以上にわたる長期の監禁生活を送ることになります。さらに、彼の妻である厳慰氷も、林彪の妻である葉群の共産党入党に異議を唱えたことで、陸定一に先立って投獄されるという悲劇に見舞われました。

名誉回復と晩年

文化大革命が終結し、改革開放路線が進む中で、陸定一の名誉は回復されます。1979年、長期の監禁から解放され、全国政治協商会議第5期第2回会議で副主席に選出されました。同年9月の第11期4中全会では、党中央委員に増補選出され、再び党の中央指導機関の一員となります。1980年からは中央宣伝部顧問に就任しますが、かつてのような実権は与えられませんでした。1982年の第12回党大会では、新たに設置された党中央顧問委員会の常務委員に選出されます。さらに、1983年6月に行われた全国政治協商会議第6期第1回会議では、再び副主席に選ばれています。

晩年は北京で過ごし、1996年5月9日、90歳の生涯を閉じました。長年にわたり党の宣伝・理論部門を率い、中国革命と建設に貢献した一方で、政治的な激流の中で大きな苦難を経験した人物として、その生涯は現代中国史の一断面を映し出しています。

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