隔夜寺

隔夜寺（かくやでら）

隔夜寺は、奈良市高畑町にある華厳宗の寺院です。かつては興福寺の末寺でしたが、1875年（明治8年）に東大寺の末寺となりました。

歴史

『奈良坊目拙解』によれば、かつてこの地には「客養寺（きゃくようじ）」という寺院が存在したとされています。客養寺の創建や廃絶の時期は不明ですが、『奈良坊目拙解』が書かれた頃には、隔夜堂という堂宇のみが興福寺勧修坊の支配下に残っていました。隔夜寺は、この隔夜堂を中心に再興されたと伝えられています。

隔夜堂は空也上人が開祖とされ、本堂には空也上人の木像が安置されています。長谷寺へ隔夜参りをする修行僧たちは、この隔夜堂を宿坊として利用しており、その風習は大正時代まで続いていました。山辺の道沿いには、長谷寺へ向かう道中に隔夜僧の名が刻まれた名号供養碑や石碑が点在しており、この風習があったことを物語っています。

鎌倉時代には、時宗の開祖である一遍上人が空也上人を慕い、この寺で修行したと伝えられています。

境内

本堂は、中坊美作守時裕によって寛文年間に建立されましたが、その後荒廃したため、享保14年（1729年）頃に修復・再興されました。しかし、再び荒廃したため、1935年（昭和10年）に元興寺の住職によって再建されました。蟇股には、空也上人が使用したとされる鉦（模造）が使われています。

境内には、本堂のほか、門、庫裏、空也上人の旧跡碑などがあります。空也上人の旧跡碑は、門の外側に建っています。

文化財

木造十一面観音立像: 本堂に安置されている本尊。錫杖を持つ長谷寺式の作風で、長谷寺の本尊の10分の1の大きさです。
空也上人像: 鹿の角のついた杖を持ち、6体の阿弥陀如来像を口から出す造形の像。江戸時代の作とされ、以前は門の内側の小堂に安置されていましたが、近年本堂に移されました。通常は非公開です。

関連の深い文化財

藤田美術館が所蔵する空也上人木像は、かつて隔夜寺にあった可能性が指摘されています。奈良国立博物館は、隔夜寺に残された同像の写真を示し、その可能性を指摘しました。1875年（明治8年）の第1次奈良博覧会には、「福井みね所蔵」の「空也上人木像」が出展された記録が残っています。その際に撮影された写真の大正時代の複写には、「空也上人木像　空也堂所蔵」「当堂古代本尊」と記されています。隔夜寺を空也堂と呼んだ確かな証拠はありませんが、隔夜寺旧蔵であった可能性はあると考えられています。

脚注

参考文献

奈良市史編集審議会 編『奈良市史 社寺編』吉川弘文館、1985年。
角川地名大百科辞典編纂委員会 編『角川日本地名大辞典29 奈良県』角川書店、1990年。ISBN 4040012909。
山田熊夫『奈良町風土記』豊住書店、1976年。ISBN 4886170056。
根井浄「原初的巡礼論 特に隔夜僧安心をめぐって 」『龍谷大学論集』第471巻、龍谷大学、2008年1月、130-163頁、ISSN 0287-6000。
“なら再発見（７３）天理市佐保庄の旭寺跡聖観音石仏 隔夜修行の開祖、空也上人”. 産経新聞 (2014年9月13日). 2016年5月28日閲覧。
“藤田美術館の空也上人立像　奈良市の隔夜寺ゆかりか”. 産経新聞 (2019年5月31日). 2021年12月22日閲覧。
“明治初期まで奈良に？ - 英国からの確認で判明　隔夜寺に旧蔵の可能性／大阪・藤田美術館の空也上人立像”. 奈良新聞 (2019年4月18日). 2021年12月22日閲覧。
“空也像、百数十年ぶり里帰り　英王室から思わぬ古写真”. 朝日新聞 (2019年4月13日). 2021年12月22日閲覧。

関連項目

日本の寺院一覧
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