隠岐方言のアクセント

隠岐方言のアクセントは、島根県隠岐諸島で話される方言特有のアクセント体系です。このアクセントは、中国地方の標準的な東京式アクセントとは大きく異なり、島内でも地域によって顕著な違いが見られます。大きく分けて、隠岐主流アクセント、五箇アクセント、知夫アクセントの3つのタイプが存在します。

隠岐方言のアクセントは、島内でも地域差が大きく、3つの主要なタイプに分類されます。

隠岐主流アクセント（浦郷アクセント）: 島後南部（西郷、磯、東郷、中条、布施）や島前の西ノ島、中ノ島で使われるアクセントです。
五箇アクセント: 島後北部（五箇、中村、都万）で使われるアクセントです。
知夫アクセント: 知夫里島（知夫村）で使用されるアクセントです。

隠岐主流アクセントと五箇アクセントでは、全ての語が第1群から第3群までの3つのグループに分類され、それぞれのグループが特定のアクセントパターンを持ちます。このようなアクセント体系は「三型アクセント」と呼ばれます。

アクセントのパターン

各群のアクセントパターンは、高音部（H）と低音部（L）の組み合わせで表現されます。また、ピッチの上昇（[）や下降（]）も重要な要素です。

第1群: LH、LHL、LHHL、LHHLL、LHHLLL
第2群: HL、HHL、HHLL、HHLLL、HHLLLL
第3群: LH、LHH、LHHH、LHHHH、LHHHHH

例として、「風」（カ[ゼ）、「形」（カ[タ]チ）、「金持ち」（カ[ネモ]チ）は第1群に属します。助詞が付くと高音部の位置が移動する「系列化」という現象が見られます。

各地区のアクセント

隠岐主流アクセント

別府（西ノ島）

隠岐の主流とされるアクセントで、古い形を残していると考えられます。島前の西ノ島、中ノ島、島後の磯（加茂）で広く使われています。

第1群: LH、LHL、LHHL、LHHLL、LHHLLL
第2群: HL、HHL、HHLL、HHLLL、HHLLLL
第3群: LH、LHH、LHHH、LHHHH、LHHHHH

海士では第2群が3拍以上でHLL、HLLLになるという報告があります。また、浦郷や海士では、イ列音・ウ列音の低下現象も見られます。

西郷・東郷

第1群と第3群の高音部が1拍のみになる特徴があります。これは、別府の体系から変化して、語頭が低下した結果と考えられます。

第1群: LH、LHL、LLHL、LLHLL、LLHLLL
第2群: HL、HHL、HHLL、HHLLL、HHLLLL
第3群: LH、LLH、LLLH、LLLLH、LLLLLH

中条（原田）

第1群の3拍語で高音部が後退する現象が見られますが、その他は西郷と同様です。

第1群: LH、LLH、LLHL、LLHLL、LLHLLL
第2群: HL、HHL、HHLL、HHLLL、HHLLLL
第3群: LH、LLH、LLLH、LLLLH、LLLLLH

布施

下降位置が大幅に後退しており、第1群と第2群で最後から2拍目の後で下降が起きます。

第1群: LH、LLH、LLHL、LLLHL、LLLLHL
第2群: HL、HHL、HHHL、HHHHL、HHHHHL
第3群: LH、LLH、LLLH、LLLLH、LLLLLH

五箇アクセント

一語内でアクセントの山が2回現れるという、日本語の方言の中でも珍しい特徴を持っています。

五箇・都万

第1群: LH、HLH、HLHL、HLLHL、HLLHLL
第2群: HL、LHL、LHLL、LHLLL、LHLLLL
第3群: ML、MLL、MLLL、MLLLL、MLLLLL

ただし、都万については研究報告により差異が見られます。一部では第1群がLLH、LLHL、第3群がLL、LLL、LLLLのような低平調であると報告されています。

中村

五箇アクセントから高音部が後退したような形をしています。第1群は3拍以上で第1拍と最終拍が高くなり、第2群と第3群は山形の音調になります。

第1群: ML、MLM、MLLM、MLLLM、MLLLLM
第2群: HL、LHL、LHHL、LHHHL、LHHHHL
第3群: ML、LML、LMML、LMMML、LMMMML

知夫アクセント

第1群と第3群が統合され、アクセントの型は2種類しかありません。

第1群: LM、MLM、MLML、MLLML、MLLLML
第2群: HL、HHL、HHHL、HHHHL、HHHHHL
第3群: LM、MLM、MLML、MLLML、MLLLML

まとめ

隠岐方言のアクセントは、地域によって多様な変化を遂げています。これらのアクセントを理解することで、隠岐の言葉の豊かさをより深く感じることができるでしょう。

参考文献

広戸惇「隠岐島アクセントの考察」『島根大学論集. 人文科学』(1951)
大原考道(1959)「隠岐島のアクセント」
上野善道「隠岐島中村方言のアクセント交替」『国語研究』(1989)
添田建治朗(1992)「隠岐の方言アクセント ―2拍名詞を対象として―」
金田一春彦「隠岐アクセントの系譜 : 比較方言学の実演の一例として」『金田一春彦著作集』(2003)
上野善道「N型アクセントとは何か(<特集>N型アクセント研究の現在)」『音声研究』(2012)

隠岐方言のアクセント