集団左遷

集団左遷

『集団左遷』は、作家・江波戸哲夫が1993年に発表した同名小説を原作として、1994年に東映が製作・配給した日本映画です。柴田恭兵が主演を務め、梶間俊一が監督を務めました。1994年10月29日に公開されています。

概要と時代背景

本作が公開された1994年は、バブル経済の崩壊によって日本が平成不況の真っただ中にあり、多くの企業で人員削減、すなわちリストラが推し進められていた時代です。原作の著者である江波戸哲夫自身も大手企業でのサラリーマン経験を持つことから、そうした現実社会の厳しい側面が色濃く反映されています。

物語の舞台は、バブル期に事業や人員を急拡大させたものの、不況下で合理化を迫られている大手不動産会社「太陽不動産」です。会社側は、非情かつ強引なやり口で知られる副社長・横山輝生を中心に、大規模なリストラを計画します。これに対し、左遷された中年社員たちが団結して抵抗し、自らの存在意義をかけて会社に立ち向かう壮絶なサバイバルを描いています。公開当時に大ヒットしていた映画『シンドラーのリスト』に倣い、当初は『リストラのリスト』というキャッチコピーも検討されていたといいます。

物語のあらすじ

バブル崩壊後の業績悪化により、人員の合理化を急ぐ太陽不動産の横山副社長は、自らの意に沿わない硬骨漢である篠田洋を新設の「首都圏特販部」の本部長に据えます。そして、会社にとって不要とみなされた50人の社員をこの部署に集め、到底達成不可能な業績目標を課すことで、事実上の全員解雇を狙います。しかし、第三営業部長の滝川晃司を中心に、左遷された男たちは絶望的な状況の中にあって結束。彼らは必死に業績を上げることで副社長に対抗し、自らの居場所を守ろうと戦いを挑みます。

製作の背景

1990年代に入り、東映はアニメーション映画では成功を収めていたものの、実写の劇映画ではヒット作に恵まれない状況にありました。1994年5月には、長年東映を支えてきたヤクザ映画の製作が事実上中止となるニュースが報じられるなど、新たな看板作品が求められていました。こうした背景から、東映はサラリーマンを映画館に呼び込む「サラリーマン路線」を新機軸として打ち出すことを企画。その第一弾として、企業のリストラをテーマにした本作の製作を決定しました。東映は本作を、舞台を企業に移し、かつてのヤクザ映画にも通じるような、男たちのプライドや存在意義をかけた熱い戦いを描くことで、企業ドラマを新たな看板路線に育てたいという強い意気込みを持っていました。過去にも同様の試みはありましたが、本作をもって改めて新路線としての展開を強くアピールしました。

製作現場でのエピソード

1994年8月17日に行われた製作発表には、主要キャストや梶間監督、そして宣伝プロデューサーの舛添要一らが出席しました。東映東京撮影所で長く活動し、労組闘士としても知られた梶間監督は、本作を自身も無関心ではいられない企業内失業問題に対する「厳しい現実の中で戦うサラリーマンへのエール」であり、「男と男の心意気のぶつかり合い」であると語った。ヤクザが登場しない新たな「活劇」を目指したことを強調しました。

主演の柴田恭兵は、初めて演じるサラリーマン役について、内に秘めたワイルドさを前面に出しすぎないよう、ヤクザのような印象にならないよう注意したと語りました。また、津川雅彦演じる悪役が単純に破滅するような物語ではないことに触れ、観客が劇場を出た後に「ネクタイを締め直すような」気持ちになれる作品であることを期待しました。

本格的な映画出演が10年以上ぶりとなった中村敦夫は、近年のテレビドラマや映画がリアリティを欠いた「絵空事」に感じられ、出演意欲が湧かなかったと語る。しかし、『集団左遷』はタイトルからしてインパクトがあり、東映が新たな挑戦として勝負を賭けている姿勢に惹かれ、そうした情熱的な現場から何か生まれるのではないかと期待して出演を決めたという。彼はジャーナリストの視点からリストラ問題にも言及し、日本のサラリーマンが企業を心の拠り所とする姿が、不況に直面して初めて一人の個人としての自覚を取り戻す劇的な変化こそが、この作品の重要なテーマであると述べました。

脚本は、過去に東映作品を手がけ、東映での映画作りの楽しさを知っていた野沢尚が担当しました。東映から「やくざ映画撤退後の次の鉱脈」として、左遷されたサラリーマンの復讐物語を描くというプロットを聞き、野沢は「今、東映がやらなければならない映画だ」と共感し、依頼を快諾しました。しかし、脚本執筆の過程では多くの困難が伴いました。本作は、当時の東映自身や日本映画界の状況（リストラ）と重なる題材であったため、社内から多くの意見が噴出。特に、組合運動の経験を持つ坂上プロデューサーは、自身のサラリーマン経験の有無を巡って野沢と対立し、リアリズム描写やエンディングなどを巡って激しい議論が繰り返されました。助監督による大幅な改稿案が提示されたり、津川雅彦の要望で再度脚本が書き換えられたりするなど、脚本家にとっては過酷な状況が続きました。最終的に、自身の脚本が大幅に改変されたことに強い不満を感じた野沢は、後に自身が連載を持つ雑誌で東映の映画作りを批判。この連載は東映からの圧力で終了したといわれています。皮肉なことに、野沢尚はこの年、『集団左遷』と同時期に脚本を手がけた松竹の『RAMPO』で共に日本アカデミー賞優秀脚本賞にノミネートされています。

評価と受賞歴

公開後の本作の興行成績は、配収1.6億円と記録的な不振に終わり、東映が新たな柱として期待したサラリーマン路線は頓挫。東映は再び混迷の局面に立たされることとなりました。社運を賭けた大作が、同時期に公開されたテレビドラマの映画化作品『NIGHT HEAD』（東宝配給）とほぼ同等の配収に留まったことは、東映に大きな衝撃を与えました。この結果を受け、テレビ局が持つ柔軟な企画力や若者へのアンテナと、映画会社の旧態依然とした体質との乖離が指摘される論調も現れました。1994年秋は、本作を含め『四十七人の刺客』（東宝）、『忠臣蔵外伝 四谷怪談』（松竹）といった邦画大作が軒並み興行不振に終わっており、当時の日本映画界全体の状況を象徴する結果とも評されました。

しかしながら、興行とは対照的に、作品自体は高く評価されました。バブル崩壊直後という時代に、リストラに苦しむ企業戦士たちの逆襲というテーマや、絶望的な状況からの逆転劇を描いた点で、その先見性を評価する声もあります。

本作は、以下のような主要な映画賞を受賞またはノミネートされています。

第18回日本アカデミー賞: 優秀主演男優賞（柴田恭兵）、優秀助演男優賞（津川雅彦）、優秀脚本賞（野沢尚）、優秀録音賞（林鑛一）
第49回毎日映画コンクール: 男優助演賞（中村敦夫）
第37回ブルーリボン賞: 男優助演賞（中村敦夫）
第7回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞: 男優助演賞（津川雅彦）※『忠臣蔵外伝 四谷怪談』と合わせて

近年では、東映の公式YouTubeチャンネル「東映シアターオンライン」にて期間限定でネット配信された実績もあります。

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