難波津 (和歌)

難波津の歌

『古今和歌集』の仮名序で「おほささきのみかどをそへたてまつれるうた」として紹介されている、王仁の作と伝えられる和歌です。この歌は、応神天皇の崩御後、皇位を巡る争いの末、仁徳天皇が即位した際に、その治世の繁栄を願って詠まれたとされています。

概要

この歌が詠まれた背景には、応神天皇の崩御後、菟道稚郎子皇子と大鷦鷯尊が互いに皇位を譲り合い、3年間も空位が続いたという出来事があります。その後、大鷦鷯尊が難波高津宮で即位し、仁徳天皇となりました。この歌は、その即位を祝し、国家の繁栄を願って詠まれたとされています。

この歌に詠まれている花は、一般的に桜と認識されがちですが、実際には梅であるとされています。また、仮名序で安積山の歌と並び、「手習ふ人のはじめにもしける」と述べられているように、古くから書道の初歩としても用いられてきました。その証拠として、徳島県の観音寺遺跡からは、万葉仮名で「奈尓波ツ尓昨(佐)久矢己乃波奈」と記された7世紀のものと見られる習書木簡が出土しています。他にも、各地でこの歌が記された木簡が数多く発見されており、平安時代には「難波津の歌」といえば「誰でも知っている歌」の代名詞となっていました。

この歌は、現代においても様々な形でその名残をとどめています。例えば、大阪市の行政区である浪速区と此花区は、1925年にこの歌にちなんで命名されました。浪速区は、区内の地域名である難波との混同を避けるため、「浪速」という表記が用いられています。

さらに、競技かるたの世界では、競技開始時に百人一首にはない和歌が序歌として読まれますが、全日本かるた協会はこの「難波津の歌」を序歌と定めています。これは佐佐木信綱が選んだとされています。下の句（第四句・第五句）を繰り返すことや、決まり字に「いまは」があることから、第四句は「今“を”春べと」と読まれています。

関連事項

この歌に関連する事項としては、以下のようなものがあります。

難波津：歌の舞台となった場所。
法隆寺五重塔初層天井組木落書：この歌が書かれた落書き。
ウメ：歌に詠まれている花であり、大阪にゆかりが深いとされ、大阪府花に指定されている。

また、この歌に由来する名称として、以下のものがあります。

浪速区
此花区
咲くやこの花館
咲くやこの花賞
大阪市立咲くやこの花中学校・高等学校

脚注

佐藤信「地方官衙と在地の社会」同編『日本の時代史4　律令国家と天平文化』、吉川弘文館、2002年、ISBN 4642008047
「角川日本地名大辞典」編纂委員会編『角川日本地名大辞典 27 大阪府』、角川書店、1983年、ISBN 9784040012704

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