雪娘 (オペラ)

オペラ『雪娘』（スネグーロチカ）

ニコライ・リムスキー＝コルサコフが1880年から1881年にかけて作曲した、プロローグと4幕からなるロシア語オペラです。正式名称は『雪娘 — 春のおとぎ話』（Снегурочка — Весенняя сказка）で、副題が示す通り、春の訪れを背景にした幻想的な物語が展開されます。約3時間15分の長さを持ち、1882年2月10日にサンクトペテルブルクのマリインスキー劇場で初演され、大きな成功を収めました。

創作の背景と音楽的特徴

本作は、ロシアの劇作家アレクサンドル・オストロフスキーが1873年に発表した同名の戯曲を基にしており、台本は作曲者であるリムスキー＝コルサコフ自身が執筆しました。オストロフスキーの戯曲には、すでにピョートル・イリイチ・チャイコフスキーが付随音楽を作曲していましたが、リムスキー＝コルサコフ版にもチャイコフスキー版と同様の題名を持つ楽曲や、同じロシア民謡に基づく旋律が見られます。

リムスキー＝コルサコフ自身はこの作品を自身の最高傑作と見なしており、その音楽語法は非常に特徴的です。神話的な存在（マロースや春の美など）には三全音や全音音階を取り入れた非現実的な響きの和声を、普通の人々には伝統的なロマン派オペラの音楽を、合唱には古くから伝わるロシア民謡に基づいた旋法的な音楽を割り当てることで、物語に登場する異なる世界の対比を鮮やかに描き出しています。ワーグナーの複雑な交響構造とは異なる形でライトモティーフが用いられているほか、物語の展開を導く「ライトハーモニー」と呼ばれる独自の和声進行も特徴です。また、フルートが雪娘、クラリネットが羊飼いレーリといったように、特定の楽器が主要人物の個性や存在を示唆する手法も用いられています。自然の情景描写における色彩豊かで精緻な管弦楽法も本作の大きな魅力の一つです。

オーケストラ編成は、フルート3（ピッコロ持ち替え）、オーボエ2（コーラングレ持ち替え）、クラリネット2（バスクラリネット持ち替え）、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、チューバ、多彩な打楽器群（ティンパニ、シンバル、トライアングル、タンバリン、タムタム、バスドラム、鐘）、ピアノ、ハープ、弦楽五部という大規模なものです。

主な登場人物

• - 雪娘（スネグーロチカ） (ソプラノ): 冬の精マロースと春の精春の美の娘。
• - マロース (バス): 冬の精霊で雪娘の父。
• - 春の美 (メゾソプラノ): 春の精霊で雪娘の母。
• - レーリ (アルト): 美しい歌声を持つ羊飼い。
• - クパヴァ (ソプラノ): 村の娘。
• - ミズギール (バリトン): 行商人。
• - ベレンディ皇帝 (テノール): ベレンディ国を治める賢帝。

物語の概要

物語は、太陽神ヤリーロの怒りにより異常な寒さが長年続く先史時代のベレンディ国を舞台に繰り広げられます。

• - プロローグ: 冬の精マロースと春の精春の美の間に生まれた娘、雪娘の存在がヤリーロ神の怒りの原因でした。両親は彼女を人間界へ送り出すことを決め、雪娘は村の貧しいバクラ夫妻の養女として迎えられます。彼女は人間の愛情というものを全く知りませんが、羊飼いレーリの歌声に強く惹かれます。

• - 第1幕: 人間の世界で暮らす雪娘は、愛情表現やキスが理解できません。レーリは彼女の心の冷たさに気づき、他の娘のもとへ去ります。一方、行商人のミズギールは婚約者クパヴァを捨てて雪娘に夢中になり、村人たちの非難を招きます。事態は皇帝に訴えられることになります。

• - 第2幕: ベレンディ皇帝は、神の怒りを鎮めるため、ヤリーロの日に大規模な集団結婚式を計画します。クパヴァの訴えによりミズギールは処罰されそうになりますが、愛情を知らない雪娘の存在を知った皇帝は、彼女の心に愛を芽生えさせた者に褒美を与えると宣言。ミズギールは雪娘への強い想いからこの役目を買って出ます。

• - 第3幕: 村の祭りの中、レーリは皇帝から与えられた権利でクパヴァにキスをし、雪娘は初めて悲しみを感じます。夜、ミズギールは雪娘に求愛しますが拒絶されます。しかし、愛を語り合うレーリとクパヴァの姿を見た雪娘は、自分も愛を知りたいと強く願うようになります。

• - 第4幕: 夜明け前、雪娘は母である春の美に懇願し、愛の力を授けられます。愛を知った雪娘は初めてミズギールの愛を受け入れますが、同時に太陽神ヤリーロの光に弱くなったことを悟り、日差しを避けるようミズギールに懇願します。ヤリーロの日、村人たちが集まる中でミズギールと雪娘が結婚を誓おうとしたその時、朝日が差し込み、雪娘は光の中に溶けて消滅します。絶望したミズギールは湖に身を投げ命を絶ちます。皇帝はこれらの悲劇的な出来事が、ついにヤリーロ神の怒りが収まった証であると人々に告げ、一同は太陽神を讃える歌を歌い、物語は幕を閉じます。

管弦楽組曲と派生作品

オペラの楽曲を元に、リムスキー＝コルサコフ自身が1895年に約15分の管弦楽組曲を編纂しました。「導入曲」「鳥たちの踊り」「皇帝の行進」「軽業師の踊り（スコモローフの踊り）」の4楽章で構成され、特に賑やかな「軽業師の踊り」は単独で演奏される機会が多い人気曲です。

また、第一次世界大戦中の1915年には、著名なバレエ団バレエ・リュスが本作の音楽を用いたバレエ『夜の太陽』（Soleil de nuit）を上演しました。これは、後に高名な振付師となるレオニード・マシーンの振付師としてのデビュー作としても知られています。

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