雷悪地

雷悪地（らい あくち）

雷悪地（生没年不詳）は、五胡十六国時代に新平郡を本拠地とした羌族の酋長です。勇猛果敢で知略に優れていたと伝えられています。

生涯

元々、雷悪地は新平に割拠し、羌族の大きな集団を統率していました。386年11月、前秦の皇族である苻登が南安で皇帝を称すると、387年1月には杏城に拠る苻纂もこれに応じ、雷悪地も苻纂に呼応して前秦に帰順しました。その後、彼は征東将軍に任じられました。

389年12月、後秦の君主である姚萇は、東門将軍の任瓫と宗度を使って、苻登に偽りの降伏を申し入れさせました。彼らは苻登が安定に到着すれば、それに呼応して安定の東門を開けると提案しました。苻登はこれを信じようとしましたが、外で兵を率いていた雷悪地は急いで苻登のもとに駆けつけ、「姚萇は計略に長けており、人を操ることに長けています。必ずや裏切りがあるでしょう。深くお考えください」と訴えました。これにより、苻登は計画を取りやめました。姚萇は雷悪地が苻登の陣営を訪れたことを知り、諸将に「この羌（雷悪地）は奸智に長けている。今、苻登のもとに行ったということは、事は成就しないだろう」と嘆いたと言われています。

その後、苻登は姚萇が懸門（人を吊るす準備）をして待っていると聞き、大変驚きました。そして側近に「雷征東（征東将軍雷悪地）はなんと賢いのか！彼がいなければ、私は青二才に騙されていたであろう」と述べ、雷悪地の見識を称えました。

しかし、苻登はかねてから雷悪地の並外れた勇略を警戒していました。そのため、雷悪地は次第に災いを恐れるようになり、多くの人々を率いて後秦に降伏しました。姚萇は彼を迎え入れ、鎮軍将軍に任じました。

390年4月、前秦の鎮東将軍である魏曷飛が衝天王を自称し、氐族・胡族を率いて後秦の安北将軍姚当成が守る杏城に侵攻しました。雷悪地はこれに呼応して後秦に背き、鎮東将軍姚漢得が守る李潤を攻めました。

雷悪地と魏曷飛は共に数万の兵を擁し、氐人・胡人は次々と彼らに帰順しました。姚萇が討伐に向かおうとすると、群臣は皆反対しましたが、姚萇は「雷悪地の智略は並外れており、もし南の魏曷飛を引き込み、東の董成（屠各種であり、当時北地に割拠していた）と結べば、甘言と美辞麗句で奸計を成し遂げ、杏城と李潤を拠点とし、遠近を支配して互いに協力するだろう。そうなれば長安の東北は私の領地ではなくなってしまう」と答え、密かに精鋭1600人を率いて出撃しました。魏曷飛は全軍を挙げてこれを迎え撃ちましたが、大敗を喫し、1万以上の兵が討ち取られ、魏曷飛は戦死しました。

これにより、雷悪地は抗戦を諦め、再び後秦に降伏を請いました。姚萇はこれを受け入れ、一切罪に問わずにこれまで通りに待遇しました。

これ以降、雷悪地は常に他者に対し「私は自分の智勇が一時の傑物であると自負していた。多くの英雄を見渡しても私と同程度であり、一方に割拠して千里に号令すれば、皆が応じてきた。しかし、姚萇に会ってからは、その智力の前に何度も挫折させられた。それ故に自分の限界を悟ったのだ！」と語り、姚萇を称えたと言われています。

雷悪地は勇猛で剛毅であり、清廉で厳格であると評判であり、正義に反することを良しとしませんでした。そのため、嶺北に割拠する多くの豪族は皆彼を敬い憚ったと言われています。

これ以降の雷悪地の動向は不明です。

参考文献

『晋書』巻115-116
『資治通鑑』巻107

もう一度検索