姚萇

姚萇：五胡十六国時代を駆け抜けた後秦の創始者

姚萇（ようちょう、字：景茂）は、五胡十六国時代において後秦という新たな王朝を築き上げた人物です。羌族の出身で、現在の甘粛省定西市隴西県西部を本貫地としていました。父は南安羌族の酋長、姚弋仲です。姚萇は姚弋仲の42人の息子たちのうち24番目の子であり、兄には姚襄がいました。

父と兄の時代：混乱の時代を生き抜く

姚萇の父、姚弋仲は南安羌族の酋長として後趙に服属していました。後趙の暴君として知られる石虎からも一目置かれる存在だった姚弋仲でしたが、冉閔の乱によって後趙が崩壊すると、関中に勢力を拡大しようとしましたが、志半ばで病没しました。

跡を継いだ兄の姚襄は、当初東晋に臣従しましたが、後に自立し、大将軍・大単于を名乗るまでになりました。姚萇は兄に従って各地の戦に従軍し、重要な戦略立案にも関わっていたと伝えられています。

姚襄も父と同じく関中での自立を目指し、各地を転戦しましたが、357年3月、現在の陝西省咸陽市淳化県で前秦軍に大敗を喫し、戦死しました。姚萇は敗残兵をまとめて前秦に降伏し、前秦に仕えることになります。

前秦での活躍：優れた軍事才能を発揮

前秦において姚萇は、苻堅の下でその優れた軍事才能を発揮しました。揚武将軍に任じられ、数々の武功を挙げ、前秦の重要な武将として活躍します。

主な功績としては、荊州北部への侵攻、斂岐の反乱鎮圧、仇池征伐への参加、そして東晋との戦争への参加などが挙げられます。特に、前涼征伐では、前秦軍の先鋒として活躍し、前涼の滅亡に大きく貢献しました。また、襄陽攻囲戦にも参加し、前秦の東晋に対する南下政策に大きく貢献しました。

しかし、383年、苻堅による東晋征伐（淝水の戦い）においては、大敗を喫し、華北は混乱の渦に巻き込まれます。

後秦建国：苻堅を殺害し、新たな王朝を築く

淝水の戦い後の混乱に乗じ、384年、前秦の北地長史慕容泓が反乱を起こします。苻堅はこれを鎮圧しようとしますが、逆に敗北し、前秦は急速に衰退していきます。この混乱の中、姚萇は前秦を離れ、多くの豪族の支持を受けて自立、大将軍・大単于・万年秦王を名乗り、後秦を建国します。

姚萇はまず、苻堅との抗争を繰り広げます。幾度かの戦闘の後、386年7月、ついに苻堅を捕らえ、殺害しました。

その後、西燕の慕容沖との抗争を経て、386年4月、長安を制圧し、皇帝に即位します。国号を「大秦」と改め、建初と改元しました。

後秦での治世：苻登との長期抗争

後秦の皇帝となった姚萇でしたが、前秦の残党である苻登との抗争は長期に渡って続きます。苻登は何度も後秦領内に侵攻し、激戦が繰り返されました。姚萇は苻登との戦いで幾度となく敗北を喫しながらも、巧みな戦略と大胆な奇襲によって苻登を撃退し続けました。

姚萇は、苻登との抗争の中で、常に冷静な判断と戦略眼を示し、後秦の領土拡大に尽力しました。一方で、民政にも配慮し、徳政を布き、安定した政治基盤の構築にも努めました。

しかし、393年12月、姚萇は病に倒れ、長安へ向かう途上で死去しました。享年64歳、在位8年でした。

人物像：聡明な権謀家

姚萇は聡明で権謀術数に長けた人物として知られています。度量が大きく、気さくで飾らない性格でしたが、その一方で、冷酷な一面も持ち合わせていました。苻堅を殺害した事実は、その冷酷さを象徴的に示しています。

姚萇は、乱世を生き抜き、後秦という新たな王朝を築き上げた傑物でした。その生涯は、五胡十六国時代という激動の時代を象徴するものです。彼の功績と残虐性の両面を知ることで、五胡十六国時代の複雑な歴史をより深く理解することができるでしょう。

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