雷門助六

雷門助六

落語家の名跡である雷門助六は、九代にわたり継承されています。歴代の助六の中には、他の著名な名跡へ改名した者もいれば、独自の芸風を確立した者もおり、その系譜は日本の大衆芸能史に独特の足跡を残しています。

名跡の変遷

初期の雷門助六は、初代から三代目まで、後に立川金馬を名乗る人物が継承しました。特に三代目から四代目の間の正確な記録は不明瞭ですが、四代目は三代目立川金馬の実子で、六代目桂文治門下の文魚が襲名しています。五代目は、後の三代目古今亭志ん生です。四代目と五代目の助六襲名については、当時塗師屋を営んでいた文魚（四代目）が、三代目志ん生が先に助六を名乗ったことに対し、二代目・三代目の墓を管理することを条件に自身が四代目を名乗り、志ん生が五代目となることで決着したという経緯が、当時の雑誌『文芸倶楽部』に記されています。

六代目 雷門助六

1882年9月9日、東京本郷に生まれた六代目雷門助六、本名青木鏡太郎は、水戸徳川家直属の請負師の家に育ちましたが、若くして伯父のもとに奉公に出るも長続きせず。15歳頃には母の弟である四代目柳亭左楽に入門し、左太郎を名乗ります。約5年間の前座修業を経て、1902年に二ツ目となり左市に改名。1904年、五代目助六（後の三代目志ん生）の門下に移り、三代目都家歌六として真打に昇進しました。日露戦争への従軍や上方への巡業なども経験。本来、兄弟子である雷門小助六（後の四代目古今亭志ん生）が継ぐべき名跡でしたが、歌六が小助六に金20円を支払って譲渡を受け、1910年12月に六代目雷門助六を襲名しました。関東大震災後は下谷に寄席「六三亭」を開業するなど、興行にも関わります。1933年に引退を表明し、引退興行のための地方巡業中、静岡で脳出血により急逝、満51歳でした。非常に艶福家であったと伝えられ、実子である八代目助六も幼い頃の父との思い出は少ないと語っています。弟子には雷門三升、初代雷門福助らがおり、初代福助を通じて雷門一門は名古屋や岡山にも広がりました。

七代目 雷門助六

七代目雷門助六は、1899年11月24日に東京浅草で生まれ、本名島岡大助。父は浪曲師の浪花亭駒右衛門でした。24歳で六代目春風亭柳枝門下の春風亭遊枝として落語界に入ります。その後、二代目三遊亭金馬門下で金六、金賀、三遊亭小金馬（真打昇進）と改名。さらに柳家金語楼門下で柳家重楼、曲亭馬きんへと改名・移籍を重ねました。一時落語家を廃業していましたが、1940年に春風亭梅橋として復帰。1942年に七代目雷門助六を襲名しました。晩年は横浜を中心に独演会を開き、芸能斡旋業や華道の指南でも生計を立てていた時期があります。1961年11月19日に61歳で死去しました。息子は太神楽の鏡味小次郎です。

八代目 雷門助六

1907年4月22日、東京本郷に生まれた八代目雷門助六、本名岩田喜多二は、六代目助六の実子です。わずか5歳で父の門下に入り小助六の名で初舞台を踏んで以来、小噺やかっぽれなどで舞台に立ちました。1917年からは五代目柳亭左楽門下にも学び、小学校時代の中断を経て、1921年には16歳で睦の五郎として真打に昇進。「若手三羽烏」の一人として注目されました。1928年、父六代目が睦会から独立した際に、自身も睦の五郎を返上し雷門五郎に改名。同世代の真打たちと「五大力の会」を結成しました。父六代目の死去後の1934年、落語を離れ軽演劇に転向。「五郎ショウ」や「雷門五郎劇団」を率いて、浅草や大阪（新興キネマ演芸部所属）などで喜劇役者として活躍。戦中戦後も一座で全国を巡業し、浅草松竹演芸場などで人気を博しました。1959年には短期間ながら吉本新喜劇の座長も務めています。1956年、八代目桂文楽の勧めにより落語界に復帰し、落語芸術協会に加入。1962年10月に八代目雷門助六を襲名し、落語に専念しました。東京、名古屋、岡山に広がる雷門一門の惣領として、その地位を確立。
踊りやかっぽれなどの素踊りを寄席芸として確立したことで知られ、
「あやつり踊り」
「かっぽれ」
「人形ばなし」
「住吉踊り」
「松づくし」
などが十八番でした。得意ネタは
『長短』
『虱茶屋』
『片棒』
『仕立ておろし』
『宮戸川』
など。1981年に勲五等双光旭日章、1986年に文化庁芸術祭賞を受章。晩年は膝を悪くし、正座が難しいため釈台を用いて胡坐で高座を務めました。1991年10月11日、大腸がんのため84歳で死去。明治生まれで最後の現役落語家でした。弟子には九代目雷門助六、四代目春雨や雷蔵、二代目雷門福助らがいます。

九代目 雷門助六

1947年1月13日、神奈川県横浜市生まれの九代目雷門助六、本名岩田孝允は、八代目助六の弟子です。1965年4月に入門し花助としてキャリアを開始。1968年9月に二ツ目昇進。1981年10月には真打に昇進し、二代目雷門五郎を名乗りました。1996年1月に九代目雷門助六を襲名。八代目の芸を受け継ぎ、特に「松づくし」「あやつり踊り」の第一人者として知られています。旧姓は青木で、後に八代目と養子縁組して岩田姓となりました。高座のマクラでは、自身の横顔が落語芸術協会会長（当時）の桂歌丸に似ている（と強弁する）というネタを使うことがあります。2024年には文化庁長官表彰を受章。弟子には三代目雷門小助六、雷門音助がいます。

受け継がれる芸

雷門助六の名跡は、その歴史の中で所属や芸風を変化させながらも、特に八代目以降は踊りやかっぽれといった特色ある寄席芸が継承され、現在も九代目によって磨き続けられています。この独自性が、雷門一門を特徴づける要素となっています。

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